「風魔孤太郎」 彼の真に相手するもの
秀吉と家康により滅ぼされた北条氏政から、最後の血筋となる赤子の養育を依頼された風魔小太郎。17年後、その赤子は壮絶な修行の末に孤太郎を名乗り、風魔一族を弾圧した家康の首を取るべく、ただ一人戦いを挑んでいた。服部九忍衆との死闘の果て、駿府城に家康を追いつめた孤太郎だが…
90年代半ば辺りにかなりの作品が復刊された印象のある石川賢ですが、もちろん、その例外もあります。
1972年、その作家活動のごく初期に「週刊少年サンデー」誌に連載された本作「風魔孤太郎」もその一つ。
時代ものということで読みたいと思いつつも、私の知る限り最初の単行本化以来復刊されていなかったものを、電子書籍で読むことができました。(以下、物語の核心に繋がる部分に触れていますのでご注意下さい)
天正18年、秀吉の小田原攻め――北条家が滅亡したこの戦いで、北条家に雇われていた忍び・風魔小太郎が、北条氏政の妻の腹から、二人の赤子を取り上げたことから物語は始まります。
その一人が孤太郎と名付けられ、小太郎の息子として育てられて――と言っても、幼い頃に鎖で柱に繋ぎとめられ、自力で脱出することを命じられるという無茶苦茶な修行を課せられて――17年後、小太郎の後を継いだ彼は、風魔一族を弾圧し、滅ぼした怨敵・徳川家康の首を狙い、一人戦いを開始します。
服部半蔵配下の九忍衆と死闘を繰り返しつつ、謎の老人と美少女・エナガの助けを借りて、ついに駿府城に潜入した孤太郎は、家康を討つことに成功するのですが――
(ここで、影武者を含めて孤太郎が二つ持ち帰った家康の首が本物かどうか、小太郎が丹念に調べるシーンが印象的)
しかし(こういう読み方をするのも申し訳ないのですが)まだここまでで物語は全体の3/4程度…
さて、孤太郎は目的を果たしたのにこの後は? と思いきや、ここで物語は、孤太郎が真に相手とするものの姿を語ります。
一個人としての徳川家康を仇として狙い、討ち果たした孤太郎――しかし徳川幕府は、すでにその家康すらも巨大なシステムの一部として取り込み、存在を始めていたのです。
すなわち、徳川幕府ある限り、家康は死なない!
(この辺り、ちと強引かもしれませんが、白土三平の「忍者武芸帖」の影丸の不死身ぶりと、よく似ているようで正反対の存在なのが非常に面白いのです)
巨大なシステムに対しては、風魔の存在とその戦いは、あまりに小さく、孤独なもの…
なるほど、それゆえに「風魔孤太郎」であったか、と感じ入った次第です。
物語的には、原作者が別にいるためか、後年の野放図に広がる石川作品に比べると、かなりおとなしめの内容にも感じられます。
孤太郎も、石川作品の主人公としては、かなり線が細いキャラクターとして――おそらくは意図的に――描かれており、そのキャリア最初期の作品として見ても、むしろ異色作と感じられます。
(尤も、主人公の必殺技が、相手を後ろから押さえつけて股間からシコロでゴリゴリ切り上げるというものだったり、美少女が五連発ライフルをブッ放して忍者たちをなぎ倒したりと、やっぱり石川賢節なのですが…)
しかし、上に述べたように、孤太郎と家康の戦いの真の構図や、それを受けてのある種虚無的な味わいに満ちた結末などは実に印象的で、石川作品云々は抜きにしても、一つの時代漫画として、評価できる点は少なくないと感じます。
一種幻の作品となっているのが、ふさわしいともふさわしくないともいえる、不思議な作品ですが――読む価値は十分にあると感じます。
「風魔孤太郎」(石川賢&牛次郎 eBook Japanほか)
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