「桃の侍、金剛のパトリオット 2」 運命に挑む、ということ
とある事件がきっかけで、孫文の秘書・宋慶齢と知り合った俊介とモモ。モモは、宿敵・袁世凱を倒すため、彼女を仲立ちに孫文に接近していくが、俊介はそれを疑問を抱く。そんな中、五族協和を目指す蘭芳は、慶齢に近づき、孫文と山県有朋を結ばせようとするが、その背後には、恐るべき敵の罠が…
1914年の東京を舞台に、天機を知る力を持つ青年・宇佐美俊介と、この世の金属を自在に操る金剛力を持つ中国人少女・モモこと香桃が、この世を混乱に陥れんとする「獣」の魔手に挑む「桃の侍、金剛のパトリオット」の第2巻が発売されました。
今回、俊介とモモの前に現れるのは、孫文とその秘書・宋慶齢(「宋家の三姉妹」の一人)であります。
蜂起に失敗して日本に亡命してきたとはいえ、中国本土における力は、無視できないものがある孫文。仮にその孫文と、魔神の力を持つ子を産むというモモが結ばれれば、ある意味理想的なカップルではあります。
さらに、俊介の仲間とはいえ、満州族の立場から五族協和を進めんとする蘭芳、そして対外強硬派を抑えるのに苦慮する山県有朋の思惑が複雑に絡み合うのですが…
ここで蚊帳の外に置かれかねないのは、主人公たる俊介の存在です。
彼には天機を読む力があるとはいえ、金属元素を自在に操るモモや、相手の持つ欲望を増幅して心を操ることができる蘭芳に比べれば、地味な能力であります。
それ以上に、彼は一介の書生。歴史上に名を残す人物たちに比べれば、存在感では数段劣りかねません。
そんな中で、俊介が事態に埋没してしまえば、単なる歴史小説もどきになってしまいますし、逆に、無理矢理俊介とモモにクローズアップしたセカイ系アプローチを取ったら、それは作品のダイナミズムを殺すことになるでしょう。
――しかし、結論を先に言えば、本作はその難しい舵取りに、一応の成功を収めていると言えます。
日本と大陸を巡る、複雑かつ巨大な政治・軍事の動き。しかし、本作でついに登場する俊介たちの宿敵「獣」の正体は、それを遙かに上回るスケールと力を持つ、まさに神話的存在です。
国家の力や歴史の流れ、そして天然自然の具現たる神といった圧倒的な存在を前にして、人に何が出来るか? 本作のクライマックスで俊介に、いや我々に投げかけられるのは、そんな問いであります。
一人の人間は、確かに無力であります。しかし、その無力に絶望していれば、そのまま何も変わらない。圧倒的な力を目前にしても、たとえごく小さな一歩だとしても、足を前に踏み出すことができる者――その者の意志にこそ、無限の可能性が宿る。
運命を読む力を持ち、そしてそれをさらに一歩進めた力に目覚めた俊介の姿を通して、本作が描き出すもの――それこそが、この問いへの答えに他なりません。
もちろんこれは、あくまでも理想論ではあります。
それでもなお、本作で見せたこの答えが、それなりの説得力を持って受け止められるのは、結論に至るまでの舞台作りと、そこへの俊介たち登場人物の追い込み方のうまさ、そして何よりも、個人が歴史と、神々と対峙することを可能にすらする伝奇小説という形式で描かれたからに他ならないでしょう。
「獣」の正体が壮大すぎて、返って伝奇ものとしての(あの人物が!? という現実解釈の)面白さが薄れた面は大きいかもしれません。前作にあった「パトリオット」に向ける眼差しが、本作には――少なくとも前作ほどは――感じられない、という点もあるでしょう。
それでもなお、前作で示された、歴史のうねりの前に立つ人の、人の心の姿を、さらに突き詰めて描いてみせた本作は、続編として正しい姿であり、そして、過去の時代を描きつつも、今という時代に相応しい内容の作品であると、そう感じられるのです。
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