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2011.10.07

「武蔵三十六番勝負 5 空之巻 死闘! 大坂の陣」 死と再生の武蔵

 徳川と豊臣の決戦が間近であることを知った宮本武蔵。この15年間、自分に対し次々と刺客を送ってきた家康を倒すため、武蔵は大坂夏の陣の激戦の中に歩を進める。しかし徳川の手勢のみならず、仲間の仇を討たんとする真田十勇士が、そして想像を絶する怪物が彼の前に立ちふさがる。

 死にたがりの武蔵が、徳川家康を、真田十勇士を、天下全てを敵に回し、孤独な死闘の旅を続ける宮本武蔵異聞「武蔵三十六番勝負」が、ついにこの第5巻で完結であります。

 幼い頃に己を虐待してきた実父を殺し、その罪の意識から、常に死に場所を、自分を殺してくれる者を求めてきた武蔵。
 関ヶ原の戦で徳川家康と、ついで真田昌幸・幸村父子と因縁を持つこととなった武蔵は、その両者から――正確には真田方は十勇士から――敵視され、次から次へと刺客の襲撃を受けることとなります。

 そんな武蔵の15年間は、本来であれば彼が求めて止まぬはずの死の危険と常に隣り合わせでありながら、しかし、皮肉にも彼のその強さが、彼を容易に死なせないというジレンマの連続。
 そんな中で己の内面を少しずつ変化してきた武蔵は、全ての因縁を断ち切るため、大坂夏の陣に向かうこととなります。


 武蔵が、大坂の陣に豊臣方で参戦していたというのは有名なお話ですが、本作はそれをアレンジして、大坂夏の陣最後の乱戦の中、ただただ家康の本陣に向かってのみ足を進める武蔵の姿が描かれます。

 もちろん、周囲がそれを黙って見ているわけがありません。佐助が、才蔵が、清海と伊佐入道が、柳生兵庫が、百地三太夫(!)が、服部半蔵が――豊臣方も徳川方もなく、ただただ、武蔵を殺すために殺到することになるのです。
(そしてもう一体、合体○○○というとんでもない、とんでもなさすぎる敵が武蔵の前に立ち塞がるのですが…)

 ほとんど冒頭からラストまで、この強敵たちとの戦いで一冊押し切ってしまった、そのパワーには圧倒されます。まさに武蔵の戦いは――いやこの作品そのものが、死闘と呼ぶに相応しい。

 その果てに辿り着く結末は、ある意味予定調和(というにはとんでもない展開)ではありますが、しかし、ここまで来たら、こう終わるしかなかったと――荒ぶる武蔵を鎮めるには、もはやこうするしかなかったと言っても良いのではないでしょうか。


 限りなく広い三途の川をさまよい続けた果てに――その最中に執拗に絡んでくるのが真田の手の者というのは平仄が合います――その旅をひとまず終えた武蔵。

 思えば、己を殺す者、己を殺す価値のある者を求める武蔵の旅は、同時に、幼い頃から自分自身にはないものと思いこんできた己の価値を求める旅でありました。
 そしてそれを再生と言うのであれば、彼の旅は、それまでの自分を一度殺し、生まれ変わるためのものだと言えるでしょう。

 死にたがりの武蔵、求道とは最も縁遠い武蔵を通じて描かれたもの、それは「生きる」という、シンプルで、それでいて実に重い――そして吉川武蔵という巨峰に共通する――ものだった…
 というのは、多分に荒削りな部分も目立った本シリーズには美しすぎるまとめかもしれませんが、しかし、この異形の武蔵譚全5巻を読み終えての、正直な気持ちではあります。

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