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2011.10.14

「琅邪の鬼」 徐福の弟子たち、怪事件に挑む

 秦の時代、港町・琅邪には、始皇帝の命を受けて不老不死の研究を進める徐福の研究所・徐福塾があった。町の大商人・西王から、鬼に盗まれた家宝の璧を探してほしいとの依頼を受け、徐福塾の巫医・残虎らはその探索に当たるが、しかしそれは琅邪で続発する怪事件の始まりに過ぎなかった…

 時代伝奇アジテーターを自称している私ですが、「時代伝奇」の対象とするところは、日本に限ることもなければ、いわゆる「時代もの」というジャンルに限ることもありません。武侠ものなど中国ものは大好きですし、過去の時代を舞台としたミステリも大好物であります。
 そんなわけで、丸山天寿という作家には以前から大いに興味を持っていたのですが、ようやくその第一作「琅邪の鬼」を読むことが出来ました。

 この「琅邪の鬼」の大きな魅力は、何と言っても探偵役が徐福(の弟子たち)である点でしょう。
 徐福といえば、古代を舞台とした(もしくは古代に絡む)伝奇ものではある意味常連キャラクター。始皇帝の命を受け、不老不死を求めて海の向こうの三神山に向かい、帰らなかった…という徐福は、その一つ・蓬莱が日本という説もあって、実に興味をそそられる人物です。

 本作の徐福は、まだその船出を行う前、そのための船を建造しているという段階。幻の神仙の島を望む港町・琅邪に、造船所と研究所を設け、不老不死の研究を行っているという状態であります。
 本作で探偵役となって活躍するのは、その研究所・徐福塾に集まった者たち。医術、易占、方術、房中術、剣術――様々な異能を持ったスペシャリストたちが、その力を活かして活躍することとなります。
 なるほど、方術や巫術というと、非科学的なものを感じさせますが、舞台はそれらと医学・科学が未分化であった時代。そんな時代にあって、彼らは超一級の技術者にして合理的思考の持ち主であり…探偵役にはうってつけであります。

 しかし、本作の面白さは、そんな設定やキャラクターのみのものではもちろんありません。本作で描かれる謎の数々は、まさにこれぞミステリと言うべき、奇想天外・空前絶後なものばかりなのですから――

 さすがにその内容を詳細に触れるのは躊躇われますので、本の帯等で紹介されている事件を列挙すれば、
「甦って走る死体」
「美少女の怪死」
「連続する不可解な自死」
「一夜にして消失する屋敷」
「棺の中で成長する美女」
いやはや、見るだけでテンションが上がるではありませんか。

 琅邪を二分する大商人・西王家で、「鬼」が家宝の璧を盗んだという些細な(?)事件から始まり、あれよあれよという間に怪事件は連続。
 果たしてこれはミステリなのだろうか、合理的に全て説明がつけられるのだろうか…などと、思わず心配してしまうほどの破天荒な内容です。

 この辺りは、舞台やキャラクターと密接に結びつきますが、「鬼」――日本のいわゆる鬼とは異なり、むしろ幽霊や死人を指すこの存在が、本当に現れ、事件を起こしても不思議ではない(実際、徐福の弟子の中には、人の残留思念を読むことが出来る者も登場するのですから)とこちらに思わせる物語となっているのが、実にうまい、としか言いようがありません。

 そしてその謎の数々が、見事なまでに合理的に解き明かされていく終盤は、まさに快刀乱麻、なるほど、あの部分がここに繋がったか! と、ほとんど無駄のない構成に大いに唸らされるのですが、さらにそこに武侠チックな大剣戟も加わるのですからたまりません。
 この辺りのジャンル横断的なエンターテイメント性は、いかにもメフィスト賞受賞作的だな、と感じます。


 しかし、何よりも本作の見事な点は、物語を構成するほとんど全ての要素が、この時代、この舞台であることに必然性を持つという点でありましょう。

 世界は秘密でできている、という言葉を地で行くような物語に込められた秘密と謎の数々…確かにいささか強引な点や、無理がある部分もありますが、しかしそれらは皆、この時代、この地でなければ成立し得なかったものであり、その意味で本作は非常に「フェア」な作品であり、見事な時代ミステリ、伝奇ミステリであると感じます。

 そして何よりも、本作の名探偵役の正体たるや――
 これはもう、あまりのはまりように、ただただ感心するばかり。是非実際にご覧になって、ひっくり返っていただきたいものです。


 個人的には、終盤に明かされるある人物の正体、本作の謎にも絡むそれが、あまりにもやりすぎというか、無理がありすぎる点が、個人的には大いに気になったところではあります。
(尤も、この設定にもそれなりの必要性はあるのですが…)

 とはいえ、それも許容範囲のものではあります。
 何よりも、これがデビュー作ということを考えれば、まさに後世恐るべしと申せましょう。シリーズの続編も、必ず読まなくてはなりますまい。

「琅邪の鬼」(丸山天寿 講談社ノベルス) Amazon
琅邪の鬼 (講談社ノベルス)

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