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2011.10.08

「はなたちばな亭恋鞘当」 恋のドタバタパワーアップ

 めでたく新年を迎えた神田蝋燭町、手習い小屋・たちばな堂は今日も賑やか…ですが、師匠のお久と幼なじみの金一の関係はなかなか進展せず。そんなところに突然帰ってきたお久の母・お咲をはじめとして、二人と白犬クマの回りには、次々と怪人物・珍事件が…周囲を巻き込む大騒動の行方は!?

 手習い小屋の鬼師匠・お久と、蝋燭問屋の手代・金一、そして不思議な白いタ…いや犬・クマの、二人と一匹の周囲で起こる騒動を描いた「はなたちばな亭恋空事」の続編が早くも登場であります。

 神田蝋燭町の蝋燭問屋・橘屋の離れで手習い小屋を開くお久は、美人なのに女の子らしいことには一切興味のない朴念仁で、始終子供たちを叱っている鬼師匠。
 そして橘屋で働くお久の幼なじみ・金一は、お久にぞっこんながら素直になれないイケメン(ただし背が低いのが玉に瑕)。

 そんな友達以上、恋人までは道遠しの二人の前にある日現れたのは、目の回りが隈取りしたように黒い白い子犬のクマ――
 実はこのクマ、どうやら犬ではなく、何と人語を喋る狸らしいのですが、それを知るのは金一ばかり。
 まさかクマが呼び寄せているわけではありますまいが、以来二人と一匹の周囲ではおかしな事件ばかり…というのが本シリーズの基本設定であります。

 その基本設定は変わらないのですが、しかし大幅に前作からパワーアップしたように感じられる本作、まず新顔の登場人物が面白い。
 特に、前作では顔を出さなかったお久の母・お咲が今回初登場。六年前に夫とお久を置いて姿を消したと思いきや、何をしていたものか、ふらりと帰ってきて…という展開なのですが、この人がまた、お久の母親とも思えない女子力が服を着て歩いているような人物。
 何とも煮え切らないお久と金一の間に火を付けようといううちはまだしも、自ら新しい恋を探して…と、見た目は超美人なだけに、本当に困ったお人であります。

 さらに、お久の前に現れたもう一人の「金ちゃん」も立派な(?)怪人物。桜のいれずみを入れた、自称「遊び人」と言ったらもう、我々にとっては頭隠して尻隠さずのようなものですが、とってつけたような珍妙な侍言葉(冷静に考えれば、ここ変なのですが勢いに押されて納得してしまうマジック)で無駄にキャラの立ったお方であります。

 そんな新顔に負けずと、お久の父と橘屋の番頭も、秘められた過去を持ちだして大乱闘を繰り広げるわ、数少ない常識人に見えた金一も妙な秘密を持っているわ、クマも前作以上にお久さんに惚れ込むわと、みんな好き放題大暴れ、最後はまたもや町内を、いや×××を巻き込んでの大騒動となってしまうのでありました。

 しかし、パワーアップしているのはそうした点だけではありません。

 本シリーズの最大の特長が、その落語調の文体にあることは、前作の読者であればよくご存じでしょう。
 地の文の語り口、そして登場人物のやりとりは、まさに落語のそれであるのですが…

 本作では、それがさらにパワーアップして、むしろナンセンス・コメディ漫画や、時代劇コメディ・ドラマ的な――誤解を招く表現かもしれませんが、より今っぽい――テンポの良さを感じさせてくれるのです。

 ポンポンとノリツッコミのように(それ漫才)言葉が飛び交う会話のリズムや、現実にはちょっとあり得ないようで、しかしお話の中では不思議と納得してしまうナンセンスな展開などは、まさに落語的ではあるのですが…しかしそこに留まるのではなく、より作者なりに洗練させたものが、本作には感じられます。

 これこそは、今振り返ってみれば、内容の賑やかさの割に、どちらかといえばおとなしめの印象もあった前作に比して、本作が最も進歩した点ではありますまいか?
 失礼ながら、これまで読んだ作者の作品の中で、本作は、もっとものびのびと書いているようにすら感じられました。


 周囲に振り回されてなかなか関係が進展しないお久と金一には悪いのですが、この勢いで、これからもずっとと楽しませていただきたいものであります。

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