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2011.10.16

「大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり クロスケ、恋をする」 人と、人でいられなくなった人と

 江戸に謎の白い灰が降るとともに、奇怪な病が大流行し、妖怪改方も刀弥一人を残して全員倒れてしまう。折しも、誤解から飛び出し、不思議な森で出会った少女・お美津に恋してしまう雷獣クロスケ。しかしお美津こそが、病の源である疫病神だった。江戸の町を救うためには疫病神を倒さなくてはならないが、果たしてクロスケの想いは…

 二ヶ月連続刊行の「大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり」、サブタイトルは「クロスケ、恋をする」。

 大きな揺れと共に降ってきた白い灰――何故か妖怪亡霊改方同心・冬坂刀弥にしか見えぬそれが、今回の事件の幕開け。灰が降るたびに江戸に謎の病人が増え、刀弥の上司である夜ノ介や刀弥の許嫁の統子、さらには宿敵である妖剣士・善鬼までも病に倒れてしまいます。

 そんな中、誤解から統子に嫌われたと思い込んで飛び出した雷獣クロスケは不思議な森に一人暮らす少女・お美津と出会い、彼女に恋してしまうのですが、豈図らんや、彼女こそは江戸に病を流行らせる文字通りの疫病神。
 江戸を病から救うため、刀弥が、善鬼が、妖怪たちが疫病神に立ち向かう中、クロスケの選択は…


 と、前作ではサブタイトルになりながらもほとんど出オチ状態だったクロスケが、今回はキッチリ物語の中心となるのですが…
 しかし、物語の裏の、いや真の主人公は、お美津であると言っても良いでしょう。

 江戸に出稼ぎに行き、伝染病になって帰ってきた許嫁を懸命に看病するも、彼は亡くなり、さらに周囲の人々も次々と病に倒れ、ただ一人生き残ってしまったお美津。
 いつの間にか老いることも、人の食べ物を食べることもなくなった――すなわち、人でなくなった彼女は、人恋しいという想いを抱きながらも、近づけばその者が病に倒れるという宿命を背負いながら、一人永きにわたって生きてきたのです。

 たとえ本人には悪意はなくとも、周囲の人々に災いをもたらし、それ故に人々に石持て追われる…果たしてそんな彼女を刀弥は斬ることができるのか、そんな彼女をクロスケは守ることができるのか?
 表紙などを見た限りでは、ユーモラスで楽しげな(あるいは軽い)印象を受ける本作ですが、しかし、その描くところは、どこまでも重く、切ないものがあるのです。


 そして、お美津に見られる、「人でいられなくなった人」の哀しみは、本作のみならず、この「雷獣クロスケ」シリーズを通して――そしてオサキの「もののけ本所深川事件帖」シリーズにおいても――ほぼ共通して描かれるモチーフであることに気付きます。

 人でありながらも、(自ら望まぬままに)人外の存在となり、それ故に疎まれる者たち――そんな彼/彼女たちの存在は、特に妖怪たちが半ば公然と人間たちと共存している本シリーズにおいては、いささか矛盾して見えるかもしれません。
 しかし、現実の世界においても、人が同じ人を差別していることを考えれば、そして人間は自らと共通点を持つ者こそ、より憎しみを抱くことを考えれば、むしろこれは十分にあり得る――いささか極端な形でこそあれ、現実のある部分を切り取ったものであると感じられるというのは、うがった見方でしょうか。

 そして、その「現実」に直面した時、どのように思い、行動するか…それによって、刀弥と善鬼の道は分かれるのであろうと、そう感じるのです。


 正直なところ、本作の魅力の一つである豊富なキャラクターの存在が――すなわちキャラクター小説としての性格が――こうした側面をわかりにくくしているとは感じます。
 キャラクター性とドラマ性と、その両輪が釣り合った時、本シリーズは大化けするのではないか…そんな想いを、希望を、本作から感じました。

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大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり クロスケ、恋をする (徳間文庫)


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