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2011.10.09

「楊令伝 三 盤紆の章」 ネガとしての梁山泊

 北方謙三「楊令伝」の第3巻は、いよいよ本編突入といった趣。
 各勢力も出揃ってついに二つの大規模な戦いが始まり、そして梁山泊が復活の烽火を上げることとなります。

 宋国打倒に向けて、静かに、着実に力を蓄えてきた旧梁山泊の面々。
 北では、幻王を名乗る楊令が遼との激突を繰り返し、南では太湖は洞庭山を拠点として、兵と物資を蓄え、来るべき時に備えます。
 また、江南で圧倒的なカリスマを誇る教祖・方臘の懐に潜り込んだ呉用は、方臘を利用して宋国の力を削がんと図ります。

 そして、ついに南北で本格的な戦いが始まることとなります。
 宋国皇帝代々の悲願である北部の燕雲十六州奪還を餌に、対遼同盟を宋と結んだ金は、遼に対して攻撃を開始。
 楊令と梁山泊軍は李応の遺した攻城部隊を繰り出して遼を圧倒、同盟を盾に宋禁軍を引っ張り出すことに成功します。

 一方、方臘は呉用も予想だにしなかった周到さと果断さを見せ、一気に江南を占拠。
 信徒の中に正規軍を潜り込ませた神出鬼没の戦法と、相手を殺すことが相手にとって功徳になるという「度人」の教えにより、宋国軍に物理的にも精神的にも多大なダメージを与え、こちらにも宋禁軍を――しかも、梁山泊最強の敵であった童貫を――引っ張りだすこととなります。

 第2巻の感想にも書きましたが、梁山泊・宋禁軍・青蓮寺・金・遼・方臘軍と、様々な勢力が入り乱れるこの「楊令伝」。
 これまで各勢力の間で高まってきた圧力がついに爆発したわけですが、梁山泊はその中で中心にいない――というか、うまく本格的な戦いから身を躱しているのが面白い。

 北方水滸伝においては、(後半では阿骨打との関わりはありましたが)ほとんど真っ向から単独で宋に立ち向かっていた梁山泊ですが、様々な勢力を利用して宋の力を削ぐというのは、これはこれで、また違った緊迫感があります。

 そんな中、一人で重責を背負う形となったのが、方臘の下に潜入した呉用ですが――
 北方水滸伝では頭でっかちで現場組から散々な評判だった(それがまた魅力…というか個性なのですが)呉用が、ほとんど自分の力のみで方臘軍の中で信頼を勝ち取っていく姿は、元々好きなキャラだっただけに、応援したくなるのです。

 そして、その呉用が任務のためとはいえ上に戴くこととなる方臘のキャラクターもやはり面白い。
 自分自身の国盗りの野望を隠そうともせず、そして自らの信徒を完全に捨て駒として扱いながらも、しかし決して単なる悪役ではなく、憎々しさも感じられないというのは、やはり彼も一個の大人物と言うべきでしょう。
 呉用が段々本気で方臘に入れ込んでいくのも、頷けるものがあります。

 そしてこの方臘像から感じるのは、やはり彼とその軍が、もう一つの梁山泊、ネガとしての梁山泊として描かれていることであります。

 片や「志」、片や「信仰」を原動力に置き、そしてその構成員をどのように扱うか、という点に、両者は大きな違いを持つことは間違いありません。
 しかし、構成員の想いが一つの方向に束ねられ、それを最大の力として宋国打倒を狙う点では、両者は共通していると言えるでしょう。

 これは熱心なファンには怒られるかと思いますが、北方水滸伝の梁山泊が持つイデオロギー性に、何とはなしに馴染めないものを感じていた私にとって、方臘の存在は、梁山泊に極めて近いものにすら感じられるのです。
(そしてそれが、呉用を引き付けたのだろうとも)

 しかしもちろん、仮に近いものであっても、両者には決定的な違いがあるはず。
 この巻のラストでついに楊令が頭領の座につき、再び「替天行道」の旗の下に復活した「梁山泊」――彼らのこれからの戦いが、それを教えてくれるでしょう。


 そして馴染めないといえば、背負ってきた情念から解放されて、いきなり明るくなってしまった武松。
 いや、明るいのはまだいいのですが、アタッチメント交換を自慢したり、似合わない渾名をつけて喜んでるのはさすがにどうかと…

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