「秘伝 元禄血風の陣」 呪怨の魔人、江戸に蠢く
子を人に殺された狗神と、親に売られた半陰陽の少年、その怨と呪が結びつき、一人の魔人・隆光が生まれた。将軍綱吉の寵愛を得た隆光は、己の胤を綱吉の寵姫に植え付け、さらに江戸を、人の世を蹂躙すべく奇怪な呪法を巡らせる。それを察知した水戸光圀は、熊野に潜む八咫烏を呼び寄せんとするが…
柳蒼二郎の伝奇時代バイオレンス三部作の第一弾、2004年にトクマノベルスの新伝奇レーベルの一つとして刊行された「元禄魔伝 八咫鴉」を改題し、2008年に徳間文庫から「秘伝 元禄血風の陣」です。
五代将軍徳川綱吉とその母・桂昌院に取り入り、希代の悪法として知られる生類憐みの令に深く関わったとして(尤も、現在は否定されているようですが)悪名高い護持院隆光。
綱吉と生類憐みの令については、しばしば伝奇ものの題材となっておりますが、この隆光も様々な形で――あるいは妖術使い、あるいは傀儡等々――伝奇ものに登場する人物であります。
しかし、本作の隆光像は、その中でおそらくは最も強烈かつ特異ものでありましょう。
せっかく授かった子を人に殺され、狂気に陥った狗神。異形の体故に親に疎まれ、寺に売られて慰みものとされた半陰陽の子。
子を失った親と、親に捨てられた子と――この人の世に強烈な怨みと呪いを抱いた二つの存在が偶然出会い、混じり合わさった末に生まれた魔人、それこそが本作の隆光なのです。
その美貌と奸智、そして奇怪な呪力によって将軍の寵愛を受けるまでに成り上がった隆光は、将軍側室のお牧の方に自分の胤を仕込み、その子を外王としてこの世に君臨させんと企みます。
そして、その障害となる天海僧正の結界を砕くため、江戸の五色不動に奇怪な狗五芒を仕掛け、穢そうとするのですが…
この第一弾は、いわばプロローグ的な内容。魔人・隆光の誕生と、そのおぞましい正体と陰謀が、開幕以来延々と描かれることとなります。
殺人と淫楽を好む隆光とその配下の描写は、正直なところ、80年代後半の超伝奇バイオレンスブームの頃の作品を思い出させるもので、この辺りは好悪がはっきりと分かれるかと思われます。
(このカラーは、作者の作品には元々備わっているものではありますが…)
しかしながら、本作は物語のスケールも、往年の超伝奇ものを彷彿とさせるものであります。
人の世を闇に包まんとする隆光一派に抗するのは、水戸光圀の要請を受けた熊野に潜む超人集団・八咫烏の美少女巫女五人と、帝の子として生まれながらも、身分を隠して熊野で育てられた青年・皇那智。
いわば邪悪と汚穢の化身・隆光に対し、善と清浄の化身とも言えるヒーロー・ヒロインを配置し、壮絶な魔戦を展開させるというのは、オールドファッションではありますが、しかしやはり心躍るものがあります。
あまりにも敵側の勢力が強すぎて、果たしてここから如何にしてこの世を救うのか…と、読んでいるこちらが途方に暮れそうな展開ではありますが、それはまさに作者の狙い通り、というところでしょう。
残る第2巻、第3巻も、近日中に紹介せねばなりますまい。
「秘伝 元禄血風の陣」(柳蒼二郎 徳間文庫) Amazon

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