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2011.10.28

「剣豪将軍義輝」 爽快、剣豪将軍の青春期

 征夷大将軍・足利義輝は、初陣の際の出来事をきっかけに、武芸を修めることを心に誓う。混沌とした状況の下、京から落ち延びることとなった義輝は、霞新十郎を名乗り、廻国修行を行った末に奥義に開眼する。再び京に戻った義輝は、戦乱の世を終わらせるため、将軍親政の体制樹立を目指すが、その前に松永弾正が立ち塞がるのだった。

 来月に文庫の新装版が刊行される「剣豪将軍義輝」は、宮本昌孝のキャリアにとって決定的なターニングポイントとなった作品であります。
 ヒロイックファンタジー「失われしものタリオン」でデビューし、「もしかして時代劇」「旗本花咲男」と時代小説志向を見せてきた作者の名前が、この作品で、一躍時代小説ファンの脳裏に刻み込まれることとなったのですから――

 本作の主人公である足利義輝は、優れた政治手腕を発揮し、当時地に落ちていた将軍の権威回復を図りながらも、それを疎んじた松永久秀と三好三人衆に攻められ、若くして命を落とした悲運の将軍であります。
 その義輝が、塚原卜伝から一の太刀の伝授を受けるほどの剣技の持ち主であり、、その最期においても、幾本もの刀を畳に突き立て、刃こぼれするたびに取り替えて寄せ手を迎え討ったという逸話を持っていることは、剣豪ファンの方であればご存じでしょう。

 本作は、そんな義輝を、青雲の志を抱いた颯爽たる青年、そして秘剣一の太刀を修めた剣豪として、見事に再生してみせた作品なのです。

 将軍ですら京を追われ、その命を危うくする混沌とした室町時代末期。
 そんな時代を舞台に、本作は、義輝や彼をとりまく善魔入り乱れた様々な登場人物の姿を、虚実とりまぜた(中巻では、義輝が変名で廻国修行に出てしまうのですから!)波瀾万丈の物語として描き出します。

 戦乱あり決闘あり、友情あり恋あり――厚めの文庫本で全3巻というボリュームは、決して少ないものではありませんが、いざ読み始めれば、まさに一読巻を置くあたわざるとは本作のための言葉…というのも大袈裟でないほどの面白さなのです。


 しかし、上に述べたように、義輝は、史実では悲劇的な最期を遂げた人物ではあります。史実に従う限り、本作の結末もまた、悲劇とならざるを得ないのですが――
 それでもこの作品が読後感が湿っぽくならず、それどころか、むしろ爽快ですらあるのは、本作における義輝が、壮大な夢に生き、叶わぬまでもその夢に向かって己の生を全うした若者として、その青春の姿を瑞々しく描いた点にあると言えます。

 作者には、『ふたり道三』『風魔』『陣借り平助』など、戦国時代を舞台とした作品が少なくありませんが、そのいずれも、本作に通じる爽やかな読後感を持っています。
 それは、どの作品も、人の命が塵芥のように失われる時代において、それでもなお、己の命を全うしようとする青春の輝きに満ちているからに他なりません。

 その意味で、作者の作品は、時代小説にして青春小説であり――そして、彼らのそれとは比べものにならないにせよ、悩みと苦しみが尽きない我々にとって、何より元気を与えてくれるのであります。


 このブログでは既に取り上げてしまいましたが、本作には外伝集である「将軍の星 義輝異聞」、そして義輝の遺児・海王が活躍する続編「海王」が発表されています。
 おそらくは作者にとって最も愛着のあるキャラクターであろう義輝像が、どのように影響を与えているか、こちらも合わせてご覧いただければと思います。


「剣豪将軍義輝」(宮本昌孝 徳間書店 全2巻ほか) 上巻 /下巻


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