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2011.10.04

「黄金夢幻城殺人事件」 虚構と現実を貫くもの

 姿を消した恋人・夕蝉姫を追う少年剣士・雪太郎は、何かに誘われるように、奇怪な妖術を操る“鋸岳の異人”が支配する黄金夢幻城を目指す。一方、少年探偵・七星スバルは、怪人どくろ男爵を追って、黄金夢幻城へ向かう。いくつもの物語、そして現実と虚構が入り乱れる先にスバルを待つものは…

(以下の文章には、本書の内容に関する大きなネタバレが含まれているため、未見の方はご注意ください)

 このブログで紹介するに相応しく、あるいは相応しくない――今日はそんな不思議な一冊、「黄金夢幻城殺人事件」をご紹介いたしましょう。

 本書の何が不思議かといえば、その収録作。まず以下にその収録作品名を挙げてみれば、それは一目瞭然であります。
「黄金夢幻城」
「中途採用捜査官:忙しすぎた死者」
「ドアの向こうに殺人が」
「北元大秘記 日本貢使、胡党の獄に遭うこと」
「燦めく物語の街で」
「黄金夢幻城殺人事件」
「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」

 …本書の第二作目、三作目は現代を舞台とした短編ミステリ、四作目は明代初頭を舞台とした歴史(伝奇)もの、五作目はショートショート集。
 「黄金夢幻城」の語を冠した残り三作は置いておくにしても、これでは単なる短編集にしか見えないではないか…そう仰る方もいるかも知れません。

 しかし、本書の著者は芦辺拓、本格ミステリに、そして先達たちの作り上げてきた物語に並々ならぬ愛に満ちた作品をこれまで送り出してきた名手・妙手であり…半ば当然のことながら、そこに何の仕掛けもこだわりもないわけがないのであります。

 これからご覧になる方の興趣を削がぬ程度にそれを明かせば、本書の第一作目「黄金夢幻城」において、黄金夢幻城と自らの因縁を知った少年名探偵・七星スバルが、その城を目指し、様々な物語世界を通り抜けていくというのが本作の構成。
 第二作目から五作目は(正確には四作目は別ですが)スバルが通り抜けたその物語世界という設定なのです。

 そしてスバルの黄金夢幻城を巡る冒険が、過去の物語、劇中劇として描かれるのが戯曲「黄金夢幻城殺人事件」、さらに、「黄金夢幻城殺人事件」が上演された劇場で起きた殺人事件を描くのがラストの「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」であります。

 元々、「黄金夢幻城殺人事件」は、劇団あぁルナティックシアターにより、「現実」に上演された舞台の戯曲。しかし戯曲の中身はもちろん(?)「虚構」であり、そのまた劇中劇である「黄金夢幻城」は、「虚構」の中の「虚構」とも申せましょう。
 そして「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」は、劇団の構成員も登場する「現実」の中の「虚構」であって…いや、実にややこしい。

 身も蓋もないことを言えば、本書は上で述べたとおり、確かに、(冒頭とラストを除けば)単行本未収録の作品を集めた短編集ではあります。
 しかしそれをよしとはせず、「黄金夢幻城」を巡る「虚構」と「現実」を、外なる構造として配置することにより、本書は一冊それ自体が、虚実入り乱れた「物語」の迷宮として生まれ変わったのです。

 しかし、そんな複雑怪奇な世界の中にあっても、ミステリとしての姿勢は決して揺るがないのが、実に嬉しい。
 本書の大トリである「「黄金夢幻城殺人事件」殺人事件」の、そのまた結末――虚実が入り乱れ、融合する瞬間に描かれるのは、どれほど不可思議な世界、現実離れした物語が描かれようとも、謎はあくまでも論理によって解かれるべしという、その宣言なのです。

 作者は、「物語」という形式、そして自らが「物語」作家であることに強い意識と拘りを持つことは、ファンであればよくご存じでしょう。
 
 ほとんど離れ業に近い形で「虚構」と「現実」を操って一つの巨大な「物語」を形作り、その中で本格ミステリへの、いや懐かしき時代伝奇や探偵ものへの愛を謳ってみせた本書は、一種の異形でありながら…いやそれだからこそ、「虚構」と「現実」を繋ぐもの、「物語」にかける作者の想いを強く感じ取ることができる、愛すべき一冊なのであります。

「黄金夢幻城殺人事件」(芦辺拓 原書房) Amazon
黄金夢幻城殺人事件

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コメント

芦辺先生の作品で印象的なのは短編集『明智小五郎対金田一耕助』で表題作も面白いですが、なんと言っても収録作の『少年は怪人を夢見る』は、江戸川乱歩先生の生み出した某怪人の伝記的内容で、他の乱歩作品とのクロスオーバーが楽しい作品です。まあ少し伝奇とは離れていますが。

投稿: ジャラル | 2011.10.05 12:22

ジャラル様:
実は私、元々は推理小説…というより探偵小説も大好物なので、芦辺先生のそうした作品群も大いに気にかかっているところです。いずれしっくりと読み直したいと思っています。

投稿: 三田主水 | 2011.10.14 23:42

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