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2011.11.13

「月の光のために 大奥同心・村雨広の純心」 ただ任務のためだけでなく

 新井白石の食客で新当流の達人・村雨広は、将軍家継の生母・月光院を警護するための大奥同心を命じられる。その月光院が、かつて想い合った幼馴染み・お輝であったことを知り、千々に乱れる村雨の心。しかし、月光院と家継には、将軍位を狙う紀伊吉宗配下の四人の奇怪な忍びたちの魔手が迫っていた…

 風野真知雄の最新作にして新シリーズ第一弾は「月の光のために 大奥同心・村雨広の純心」。
 「大奥同心」というタイトルを聞いた時には、今回は伝奇風味は少ないかな? と勝手に思い込んでしまいましたが、それは私の大間違い。

 何しろ導入部からして、次代の将軍位を狙う紀伊吉宗が、配下の紀伊忍び(御庭番の前身)の奇怪な術の遣い手四人を送り込み、現将軍である家継を暗殺させようというのですから!
(ちなみに古くからの風野ファンにとっては、「刺客、江戸城に消ゆ」で暗殺者に命を狙われることとなる吉宗が、暗殺者を送り出す側になることに複雑な感慨が…)

 そして幼い家継、そしてその生母である月光院を狙う不穏な陰を察知した新井白石や間部詮房によって設置されたのが、大奥同心というわけ。
 主人公で塚原卜伝の流れを汲む新当流の達人・村雨広は、その剣技を買われて、他の二人、そして大奥の協力者たる大奥女中・絵島とともに、大奥同心に抜擢されることとなります。

 かくて、三人の大奥同心vs四人の紀伊忍びの暗闘が展開される…というのは、本作の物語の半分でしかありません。
 実は、村雨が守るべき月光院こそは、彼の幼馴染みであり、純粋に想い合った仲でありながら引き裂かれたお輝の後身。
 彼女との離別から10年、しばらくを抜け殻のように過ごしてきた村雨にとって、月光院を守ることは、単なる任務ではなく、それ以上に、己の心の中の、最も大事な部分を守ることでもあるのです。

 大奥同心の戦いを縦糸に、村雨と月光院の秘められたロマンスを横糸に――伝奇とロマンス(英語にすると一緒ですが)の組み合わせは、作者の代表作たる「妻は、くノ一」に通じるものがありますが、本作は二人を隔てる壁があまりに厚いゆえに、なお一層切ない味わいがあります。

 そして、切ない想いを抱えるのは、村雨と月光院だけではありません。彼らの周囲の人々――特に、彼らの戦う相手たる紀州忍びたちもまた、単なる書き割りのキャラクターではなく、それぞれの想いを抱えて、それぞれの戦いを繰り広げることとなります。
 作者が、ごくわずかな文章で、そのキャラクターの存在を鮮やかに描く技の持ち主であることは、愛読者であればよくご存じかと思いますが、それは、本作でも遺憾なく発揮されているのです。

 史実に照らせば、――そして、あまりにも意外な本作のラストを見れば――この後、村雨たちを待つ運命は、決して明るいものではないように思われます。
 果たして、その暗い予感は的中するのか否か…もちろん、それが外れることを心から期待しているところです。

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