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2011.12.12

「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」 二つの世界の接点は?

 美貌の貴公子・光の君の妻・葵の上に妖しいものが取り憑いた。六条御息所の生霊かと思われたそれは、しかし、それに止まらず、様々な妖異を生じる。並みの陰陽師では歯が立たぬ相手に、光の君は外法陰陽師の蘆屋道満のもとを訪れる。葵の上に憑いたものは、二人にある謎かけをするのだが…

 夢枕獏の新作「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」が発売されました。最近流行の(?)文庫・単行本・電子書籍同時刊行というスタイルですが、発行形態に負けずに、内容の方もなかなか、いやかなりユニークなものとなっております。

 本作は、「源氏物語」の第9帖「葵」を題材とした物語。
 光の君(光源氏)の正妻・葵の上が、賀茂祭の際に、光の君のかつての恋人・六条御息所と車争いを起こしたことをきっかけに、御息所の生霊に憑かれる――
 このエピソードは、その奇怪さゆえに、私のような「源氏物語」にあまり親しんでいないような人間にも知られているのではないかと思います。

 が、本作では、これを基にしつつも(御息所が芥子の匂いで自分が生霊となっていたことを悟る場面などもそのまま)、大きく大きく膨らませた物語が展開されていきます。
 そう、本作においては、葵の上に憑くのは、御息所の生霊だけではありません。その他、奇怪な妖たちや神々、様々なモノが取り憑き――そして何よりも、それに挑むのはあの蘆屋道満なのですから…!

 そして本作は道満がこのモノ憑きに挑んだ時から、新たな側面を見せることとなります。
 葵の上に憑いたモノは、光の君と道満に二つの謎をかけます。それは――
「地の底の迷宮の奥にある暗闇で、獣の首をした王が、黄金の盃で黄金の酒を飲みながら哭いている――これ、なーんだ?」
「固き結び目ほどけぬと、中で哀れな王が泣いている。この結び目ほどくのだーれ。」

 現代の人間、特に神話伝承に興味がある方であれば、あれ、これはもしかして…とすぐに答えを思いつくかもしれませんが、それが合っているかはさておき、光の君と道満はあくまでも平安時代の人間。
 彼らは、持てる知識を総合して、この二つの謎の挑むことになりますが、それは、同時に、この国に隠れて伝わった、異国のモノとの対峙に繋がっていくこととなります。
 摩多羅神や大酒神といった隠れたる神々、そして彼らがおわす太秦寺や比叡山…二人の冒険は、ちょっとした民俗学的謎解きの旅として、次々と思わぬ方向に転がっていくことになるのですが――

 その旅の果てに光の君を待つモノが何であるか、それはもちろんここでは語りませんが、大げさに言えば、かつてシッダールタが達したものに近いのではないか…と感じられるものと申せましょうか。
 しかしそれが、光の君のパーソナリティと結びつき、一つの結末を迎える姿は一つの「源氏物語」の結末として、頷けるものがあります。


 しかし、個人的にどうにもすっきりしないのは、完全なる虚構である「源氏物語」の世界に、曲がりなりにも実在の人物である蘆屋道満が、何の説明もなく登場することであります。

 確かに、物語の内容的に、道満が登場すべき理由はそれなりにあるのですが、しかしそれで本来交わらないはずの二つの世界の住人が競演する理由になるとは思えません。
 もしかして、世界観的に大きな仕掛けがあるのでは、と密かに期待したのですが…

 こんなところを気にするのは私だけかもしれませんが、しかし、ある意味本作の趣向の根元に関わる点であり、そこは何とかしていただきたかった…というのが正直なところであります。

「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」(夢枕獏 角川書店) Amazon
秘帖・源氏物語 翁‐OKINA

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