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2011.12.17

「咸陽の闇」 その闇が意味するもの

 始皇帝との対面のため、咸陽の都にやってきた徐福一行。彼らが滞在する村の首塚に、人食い女が出たと騒ぎになる。それをきっかけとしたように、次々と咸陽で起きる事件の数々。果たして、亜人(人造人間)は存在するのか、事件との繋がりは、そして巨大な墳墓を造営する始皇帝の真の狙いとは――

 伝説の方士・徐福と、いずれも一芸に秀でたその弟子たちが、続発する奇怪な事件に立ち向かう歴史伝奇ミステリシリーズの第三弾であります。
 前作までの舞台であった港町・琅邪を離れ、今回は秦の都・咸陽を舞台として、奇想天外な事件が描かれることとなります。

 始皇帝に対面するために咸陽にやって来た徐福たちが滞在する村――その村の少女が、村の首塚で、人を食らう女を目撃したことが、全ての事件の始まりとなります。

 少女の叫びに桃や狂生、残虎といったお馴染みの面々が駆けつけたにも関わらず、その場には人食い女も、食われた犠牲者もいないという状態。
 しかし状況証拠は、確かにその場に何者かがいたことを示しており、さてそれでは誰がどこから来てどこへ去ったのか、そして誰が犠牲者となったのか?
 謎ばかりが残る中、次々と事件が発生し、桃たちはさらなる謎の連鎖に巻き込まれることとなります。

 というわけで、これまでのシリーズ同様、奇怪な事件が続発しては、謎ばかりが山積みになっていくのですが、今回の事件と謎は
「首塚に現れた人食い女」
「若い娘の連続失踪」
「皮だけが残る大量の死体」
「人造人間の出現」

 …人造人間!? と最後の一つには思わず目を疑ってしまいましたが、本作に登場する人造人間は「亜人」と呼ばれる存在。
 男女の交わりから生まれてくるのではなく、人間のパーツをつなぎ合わせ、そこに魂を吹き込むことで誕生するという亜人(一種のフランケンシュタイン・モンスターですな)を作りだし、その技術を応用することによって、人間は不老不死になることができる――
 徐福と同様、始皇帝のために不老不死の研究を行っている巫医・廬生は、この亜人製造に成功したというのですが…

 と、物語は、この亜人の謎を中心に展開していくことになりますが、巧妙なのは、これまでの作品ほど事件の事件性があからさまでなく(そもそも最初の事件からして、誰が犠牲者なのか、そもそも本当に犠牲者がいたのかわからないのですから)、どこまでが事件で、どこからが違うのか、皆目わからなくなっている点でしょう。

 前二作は、ほぼ同じフォーマットで展開する物語ですが、本作は、舞台だけでなく物語構造も――もちろん終盤の大活劇や徐福大人の説教など、欠かせない要素はありますが――このように変えてきている点が、実に楽しいのであります。


 さて、複雑怪奇な謎の数々の先に待っている真実は、現代の我々の目から見れば荒唐無稽なものであるかもしれません(正直なところ、謎のうちの一つの真相は、容易にわかるように思えます)。
 しかしながら、これを当時の人間の立場として考えてみれば、十分に成立する動機であり、また手段であることは間違いありません。
 そしてまた、「闇」が意味するもの――すなわち「真犯人」の犯行の動機を考えれば、いつの世も変わらぬ権力者の発想に、暗澹たる想いすら感じさせられるのです。
(もっとも、ラストに描かれる、それに対する希望の存在は、理想主義的ではありつつも、それなりに納得できるものであります)


 その時代でなければ起きえない事件を描きつつ、ある歴史的事実に一つの解釈を与えた上で、その背後に、現代にまで通じる人の心を描き出してみせる――
 これまでのシリーズがそうであったように、本作もまた、優れた歴史伝奇ミステリと呼んで、さしつかえありますまい。


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