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2012.01.16

「山風短 第四幕 忍者枯葉塔九郎」 原作に忠実ながら…

 駆け落ちしてきた妻・お圭を疎ましく感じ、彼女を捨てようと画策する浪人・筧隼人。そんな彼の前に現れた奇怪な男・枯葉塔九郎は、仕官を賭けた御前試合で彼を勝たせる代わりに、お圭を売れと持ちかける。体を斬られても繋がる塔九郎の忍法により、首尾良く仕官した隼人だが…

 せがわまさきが山田風太郎の短編を漫画化する「山風短」第四幕は、三人の男女を巡る奇怪な物語「忍者枯葉塔九郎」であります。

 奥州から鳥取まで駆け落ちしてきた筧隼人とお圭夫婦。旅の最中に己の才への自信を打ち砕かれた上、主家を捨てて得たお圭まで疎ましくなり始めて自棄になった隼人は、お圭を捨てることを考え始めます。
 鳥取藩主の御前試合に出場するために金が必要という名目で、お圭を遊女屋に売り払おうとする隼人の前に現れたのが、忍者枯葉塔九郎を名乗る奇怪な男であります。

 その男、原作の描写を引用すれば「顔は、蒼いというよりむらさきを呈し、眼は糸のようにほそく、鼻は、ないといった方がいいほどひくくて、巨大な唇は厚ぼったく、ベトベトとぬれていた」という奇怪な人物。
 お圭を自分に譲れば金を払おう、それだけでなく、御前試合で勝たせてやろう――そんな塔九郎の誘いに、隼人は乗ります。

 刀で斬られても死なず、即座に繋がる体を持つ塔九郎とのいわば八百長試合に勝利して仕官の口を得た隼人。何を思ったか、試合で「死んだ」塔九郎を甦らせたお圭。そのお圭を連れて同行二人の旅に出た塔九郎――

 それから数年、郡代に出世した隼人の前に、お圭と塔九郎が現れた時、隼人の運命は狂っていくこととなります。


 正直なところ、原作の初読時には、あまり強い印象を受けなかったこの「忍者枯葉塔九郎」。
 しかし今回、改めて「山風短」として読み直してみれば、三人の男女にビジュアルが与えられたことにより、その内容がより強く印象に残るようになったように感じます。

 男らしい才気を感じさせながらもどこか人間的な弱さを感じさせる隼人。前半の堅さとと後半の妖艶な姿の変化に驚かされるお圭。
 そして何より、不気味さと愛嬌をともに湛えた、上に引用した原作の描写そのままの姿をビジュアライズしてみせた枯葉塔九郎――
(試みに絵だけ見せても、山風マニアであれば名前を当てることができるほど、イメージ通りの描写であります)
 前半と後半で姿を変える隼人とお圭、その一方で全く変わらぬ塔九郎、三人の姿は、そのまま彼らの人生の有り様を示すようで、何とも興味深いのです。

 ちなみに、今回本作を読んだ際に、個人的に隼人に感情移入してしまったのには、我ながら驚きました。
 誰でも大なり小なり持つ若き日の過ち。
 功成り遂げた後、その過去の過ちそのものが自分に突きつけられた時、人はそれにどう対するべきなのか…

 もちろん、隼人のそれはあまりに大きな、人として全く恥ずべきものではあって、全く同情できるものではありません。
 しかしそれでもなお、解き放たれたかのようなその後のお圭の姿を見れば、彼に対して、哀れさと、一種共感混じりの恐怖を感じてしまった次第です。


 そんな本作ではありますが、実は一つの――あまりにも贅沢なもので恐縮ですが――不満があります。
 それはあまりにも本作が原作に忠実であること、であります。

 もちろん、それ自体は大いに賞賛されるべきものではあります。しかし、これまでの作者による山風作品の漫画化が、忠実な中にもそれなりのアレンジを加えていたのに比べれば、いささか物足りなく感じてしまったのが、正直なところなのです。


 この「山風短」は、本作で一端幕とのこと。その幕がいつか再び開くのか、別の山風作品が描かれるのか、はたまた全く別の作品を見せてくれるのか――

 いずれにしても、新たなるせがわ作品との出会いを楽しみにしたいところです。

「山風短 第四幕 忍者枯葉塔九郎」(せがわまさき&山田風太郎 講談社KCDX) Amazon
山風短(4)忍者枯葉塔九郎 (KCデラックス)


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