「平清盛 運命の武士王」 清盛にとっての異界
昨日述べたように、大河ドラマの波及効果で、児童文学の分野でもちょっとしたブームとなっている「平清盛」「平家物語」もの。
本作「平清盛 運命の武士王」もその一つですが、しかし個人的には気になる作品なのです。
その理由は、作者が小沢章友である点であります。
最近は児童文学での活動が目立つ作者ですが、その作品の中で大きなウェイトを占めるのは平安もの。それを考えれば、作者が清盛ものを書かないわけがないと思っておりました。
さて、本書はその作者が、清盛の一生を描いた人物伝。
その誕生から死までを、清盛自身に密接に関わる出来事は当然のこと、鳥羽僧正や藤原成通等、同時代の人物や事件を含めて手際よく配置し、整然とまとめた作品であります。
本作の副題となっている「武士王」とは、白河院の子として王族の血を引き、平忠盛の子として平家の頭領となった、清盛の特異な立ち位置を説明したワード。
本作の清盛は、その武士王として、麒麟が白い雲の上に現れるような理想の政を目指し、その手段として、海に開かれた貿易立国を求めた人物として描かれます。
もちろん、この種の人物伝の特徴として、主人公のポジティブな面が強調されがちな内容ではありますが、その清盛の一種の理想家としての側面(リアリストとしての側面も同時にきちんと描かれるのですが)が、周囲との軋轢を生み、彼の夢が破綻していく様もきちんと描かれています。
個人的には、本作の対象年齢である小学生の時分には、この辺りの歴史は色々と入り組んでいて苦手だったのですが、本作はその辺りも極めてわかりやすく整理しているのは好印象。
清盛の出生にも繋がる忠盛灯籠(白河院に、雨の夜に現れた怪人を討つよう命じられた忠盛がこれを取り押さえてみれば、灯籠に火を入れようとした老人だった)や、源三位頼政の鵺退治など、子供の興味を引きそうなエピソードを巧みに盛り込んでいるのも楽しいところです。
と、それだけであれば、如何にこの作者の作品とはいえ、私が本作をこのブログで取り上げることはありません。それでも取り上げたのは、本作の一種の狂言回しとして、土御門家の陰陽師が登場するためであります。
土御門家で陰陽師といえば、安倍晴明の子孫が戦国時代に名乗った土御門家を当然連想しますが、小沢作品における土御門家は、都の丑寅の方角の深い深い森に住まう陰陽・天文博士の家柄。
作者の平安ものの代表作「夢魔の森」をはじめとして、「闇の大納言」「曼陀羅華」といった平安幻想もので活躍する陰陽師たちを生み出した一門であります。
本作に登場するのは、その子孫・土御門竜明。清盛がまだ少年の頃、広沢の池で共に足のある白い蛇を見て以来、数は多くないものの、彼の人生に幾度か顔を見せ、彼に強い印象を与える人物として描かれるのです。
当然ながら、これは一種のファンサービスとしての側面があるのでしょう。
しかし強く印象に残るのは、竜明が清盛に対して、藤原成通の蹴鞠を通じて、名人の境地というものを語る場面であります。
あたかも己と鞠が一体となったように、鞠を蹴るともなく蹴る成通の境地。それは、物事への執着を超え、自らが求めたものを、その極みにおいて自ら手放すことを可能とするものであったのですが――
竜明が清盛に求めたその境地に、ついに清盛は達することができなかったことは、歴史が証明するとおりです。
だとすれば、あるいは、半ば異界に住まう土御門の陰陽師は、清盛にとっての異界――彼が歩めたかもしれない道、また別の人生の可能性を象徴する存在だったのかもしれません。
これはもちろん、ファン(それもタチが悪い)の勝手な深読みに過ぎません。
それでもなお、このような読みを可能としてくれるだけのものを、本作は持っているのです。
「平清盛 運命の武士王」(小沢章友 講談社青い鳥文庫) Amazon

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コメント
清盛は興味深い歴史上の人物です。
投稿: よし@勉強法 | 2012.07.11 04:08