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2012.02.20

「陰陽頭 賀茂保憲」 大陰陽師、闇を狩る…?

 妖怪や鬼、怨霊に悪しき神…平安京は様々な魔に狙われていた。そんな闇の存在から京を守るは、陰陽頭・賀茂保憲――大陰陽師と仲間たちが闇に挑む!

 …というあらすじは、間違えてはおりませんが、100%正しいというわけでもありません。
 何しろ作者は伊藤勢。ヒーローの派手なアクションや、この世のものならざる怪物の跳梁を迫力に富んだ筆致で描くと同時に、時に不謹慎な、時にすっとぼけた、時にお下劣なギャグをしれっと交えてくる曲者なのですから…

 というわけで、本作「陰陽頭 賀茂保憲」は、その伊藤勢が「コミック怪」誌に「闇守人」のタイトルでシリーズ連載してきた短編を集めた作品集。
 いかにも作者らしく、アジアン伝奇テイストが横溢する中に、破天荒なアクションと大破壊、ナンセンスギャグを満載した怪作・快作揃いであります。

 本書に収録されているエピソードは全4編。玉藻前と大陰陽師の対決があらぬ方向に転がっていくパイロット版的趣向の「九尾」をはじめとして、いずれのエピソードも、平安の奇譚・伝説・霊異譚好きであればお馴染みのエピソードを大胆に脚色しています。

 「百鬼夜行」では、幼い頃の安倍晴明が、師と夜の京を行く際に百鬼夜行の存在を察知した「今昔物語」のエピソードを。「常世蟲」では「堤中納言物語」中の「虫愛づる姫君」を。
 そして大作「牛王」では古浄瑠璃などに登場する源満仲の娘・丑御前の物語を――

 題材となったいずれのエピソードも、好きな人間の間ではそれなり(以上)に有名であり、これまでにこれを踏まえた作品も少なからず存在します。
 それでもなお、本作が独特の魅力――というより異彩を放つのは、その元ネタを、徹底したパロディセンスで粉砕し、再構築しているためでしょう。

 なぜ百鬼夜行と対峙していたはずの保憲がチョッパーで京を爆走するのか、なぜ晴明が女装して虫愛づる姫君と小美人やってるのか、なぜ丑御前-素戔嗚尊-牛頭天王の伝奇的ラインが巨大××××攻防戦になるのか…
(ちなみに前二作での晴明いじりはいささか危険域)
 一見無茶苦茶をやっているようでやっぱり無茶苦茶、しかしその中にキラッとこちらを唸らせるようなアイディアの数々が隠されているのが――特に上記の牛頭天王解釈など、駄洒落のようでいて妙な説得力――何とも楽しいのであります。

 楽しいといえば、作者の作品のお楽しみのスターシステムも、「牛王」の実質上の主人公カップルである坂田金時と丑御前が、個人的に非常に思い入れのあるあの作品の二人っぽくて…


 というのはさておき、とにかく作者がのびのびと、好きな題材を好きなように描いているのが本当に嬉しい本作。
 一応単行本は一冊でまとまっていますが、続編の構想もあるようで、今後も伊藤流平安伝奇活劇を楽しませていただけるようです。


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コメント

晴明いじりが凄かったこの作品、伊藤先生は夢枕獏先生と仲良しだけど大丈夫かいな(笑)と心配してしまいました。まあ天神様をああいう使い方している時点で神も仏も(笑)。

しかし考証やスピード感は前出の夢枕先生や田中芳樹先生が信頼して挿絵や漫画化を任せる伊藤先生だけあって流石でした。私も続編見たいですね。

投稿: ジャラル | 2012.02.20 12:19

 賀茂保憲のかっ飛びぶりが楽しすぎます。安倍晴明が大陰陽師と言われる様になった理由は、こーいう師匠を反面教師にした結果「やっとまともな、保憲の代わりになれる実力の陰陽師が出た! 」という宮中が一致団結した後押しあったんでね? という感じがする。同じ夢枕先生の作品が素になっている「キマイラ天龍変」もよかったですが。これもまた良い。無理かもしれませんけれど「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の漫画化とか、キマイラ前史といえる赤須子の物語(夢枕さんが原案だったらなお良い)を描いて欲しいなぁなどと思いますよ。ブログ主の趣旨から外れるかもしれませんが、ブログ主さんによる「キマイラ天龍変」のレビュー読みたいです。

投稿: almanos | 2012.02.22 23:00

ジャラル様:
いやもう本当にバチ当たりな作品ですが、それこそが作者の真骨頂といいますか…画力その他が飛び抜けているだけに本当にタチが悪い(褒め言葉)作品でしたね。やっぱり続編は見たいです。

almanos様:
なるほど、確かにものすごい反面教師ですね…
実はクロスオーバーものは大好きなので、「キマイラ天龍変」は大変楽しく読みました。乱蔵が闇狩り師を志す件などは実に良かったですね。

投稿: 三田主水 | 2012.02.27 23:32

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