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2012.02.03

「戦都の陰陽師」 姫陰陽師と伊賀忍びが挑んだもの

 幾多の血が流されたことにより、京を守る結界にほころびが生じ、恐るべき天魔が跳梁を始めた。天魔を討つことができるのは、かつて晴明が出雲に封印した霊剣・速秋津比売の剣のみ。晴明の末裔たる土御門家の姫・光子は、伊賀の忍び七人を護衛に、剣を求めて旅立つ。しかしその前には幾多の不穏な陰が――

 忍者と妖怪のトーナメントバトルを真っ正面から描いた「忍びの森」で好き者を瞠目させた武内涼の第2作であります。

 将軍義輝の弑逆に代表されるように、戦国の嵐の中で退廃と混沌の極みにあった京。そこにかつては無数に施されていた霊的封印もほころび、その隙間から六百年ぶりに侵入してきた強大な天魔――
 通常の武器では傷一つつけることもできぬその天魔を唯一討つことができる霊剣を目指して、土御門の姫・光子と、彼を護る伊賀藤林党の忍び七人が、苦難の旅に出ることとなります。

 というあらすじを見れば、前作の閉鎖空間での戦いに続き、今度はロードノベル形式で忍びと妖魔の戦いが描かれるのか、と思ってしまうのも無理はありません。
 しかし本作で光子と忍びたちの前に立ち塞がるのは、意外な、そしてある意味当然の敵――人間であります。

 自らの手を汚すことなく光子たちを殺し、霊剣を奪い取るために妖魔たちが選んだ手段とは、戦国にしのぎを削る大名たちを焚き付け、光子たちを襲わせること。
 一度は阻まれたかに見えたその奸計は、しかし二つの勢力を動かすことになります。すなわち、毛利元就を長に天下取りを狙う毛利家と、彼に復仇を誓い尼子勝久を奉じる尼子一党と――奇しくも不倶戴天の敵同士であり、そしてそれぞれ世鬼一族と鉢屋衆という忍び集団を有する両者が、光子たちの旅の最大の障害として立ち塞がることとなるのです。

 かくて、本作の大半を使って描かれるのは、光子と7人の伊賀忍びvs毛利家vs尼子一党の、三つ巴のマラソンバトル。
 中国地方の豊かな自然を舞台に、忍術、忍術、武術、そして陰陽術が入り乱れ、様々なシチュエーションで展開される戦いの数々を描き上げた作者の新人離れした筆力には、今回も驚かされます。


 そしてその戦いを通じて浮かび上がるのは人がただ己の欲のために人を殺す、戦国時代の地獄めいた構図であります。
 人類全体の敵である妖魔を滅する、すなわち全ての人を助けるため力を持つ速秋津比売の剣を――たとえ妖魔に騙され、唆されたとはいえ――我が物にするため、他の者を殺め、傷つけることも厭わない…
 そんな人々の姿は、しかし、この物語に限られたものではなく、戦国時代全体の縮図に過ぎないのです。

 そしてさらに言えば、その人のエゴの噴出は、ただ戦国時代に限られたものではななく――人の歴史がある限り、もちろん現代においても存在するもの。
 本作の根底に流れるのは、それに対する作者の静かな怒りであります。


 正直なところ、このテーマ性が鼻につく部分はあります。
 (それと表裏一体なのですが)人に恵みをもたらす一方で、扱いを誤れば大いなる災いをもたらす霊剣が象徴するものがあからさますぎる点もあります。
 また、こうした部分も含めて、作者がその時書きたかったであろうものを全て盛り込もうとしたことで、物語の構造が必要以上に煩雑になったり、逆に展開にムラが出た点も目につきます。

 この辺りは残念ではあるのですが…それでもなお、本作がオンリーワンの魅力を持った時代伝奇小説であることは間違いありません。

 作者がこれらの点を乗り越えて、さらに洗練された、さらに魅力的な作品を発表してくれることを――そしてそれは遠い未来のことでは決してないでしょう――期待してやみません。


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