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2012.02.18

「真田幸村異聞」 鬼子幸村、戦場を駆ける

 真田幸村は、真田一族の血が結実した鬼子だった。生まれながらに強い験力を持つ幸村は、その鬼子の魂の導くままに戦いを繰り返す。その末に、一子・幸昌とともに大坂の陣に臨んだ幸村。一族を滅するという宿命を持つ幸村の、そして真田一族の運命は…

 戦国時代最大のヒーローとして受け止められているのは、やはり真田幸村なのではないかと思います。
 人気、という点で上回る人物は幾人もいるかとは思いますが、フィクションで描かれる際、ほとんど全て善玉扱いというのは彼くらいではないかと思うのです。

 本作はそんな幸村を主人公に据えた作品でありながら、しかしそこで描かれる彼の姿は、単純な善玉ではない――荒ぶる魂を秘めた、鬼神の如き存在であるのが目を引きます。

 本作においては、修験道に通じた一族として語られる真田一族。その中で、本来であれば厳しい修行を必要とするはずの験力(一種の超能力)を生まれながらに持つ幸村は、鬼子として一族同士で殺し合い、一族を滅ぼす存在として語られます。

 そんな本作の幸村像は、他の作品で見られるような義に厚い知将や颯爽とした荒武者ではなく、むしろ時として凶暴な表情を見せる、一種魔人ともいうべき存在。
 特に大坂の陣においては、宿敵・家康を討つため、念動力や憑依といった験力を駆使し、家康を法力で護る南光坊天海と死闘を繰り広げることとなるのです。


 しかし本作は、こうしたいかにも伝奇的な派手な側面を持ちつつも、その一方で、幸村のもう一つの側面を描く方向に向かっていくこととなります。

 その人間幸村を描く筆となるのは、その子・幸昌の存在であります。
 真田幸昌は、いわゆる真田大助として知られる存在ですが、本作においては、実は梅という名の女性という設定(ここで幸村のことに詳しい方であれば、おっ、と思われるはず)。
 少女でありながら戦いを恐れず、それどころか幸昌を名乗って戦装束に身を包み、積極的に戦いの場に飛び込んでいく梅は、幸村の鬼子の気性を継いだかのようなキャラクターとして描かれます。

 しかし、たとえそうであっても梅は娘(女)であり、幸村は父。それが鬼の心をいつしか変え、人間として己の戦い以上に大切な物を教える――
 というのは、正直なところ定番の展開であるかもしれませんが、本作の特異な、凶暴なまでの幸村像を通して描かれると、不思議な説得力を持つのです。

 平和に馴染めず、己と一族を滅ぼすことも厭わずに最後の最後まで戦いを求めた戦国武将・真田幸村。
 その戦いを止めたのが、自分の娘――自分の血を引く者であり、そしてその血を更に継いでいく者であったというのは、真田一族の宿業(そしてそれは、実は戦国武将全てに共通するものなのですが)の終焉として、印象的に感じられるのであります。


 しかし残念なのは、本作がこうした内容を存分に描くのには、いささか分量が少なかったことであります。
 せめて単行本2冊分あれば、幸村と、梅をはじめとするその周囲の人物たちの描写を、もう少し掘り下げて描くことができたのではないでしょうか。
 本作の幸村像がユニークであるだけに、その点だけは残念でなりません。


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