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2012.02.05

「波に舞ふ舞ふ 平清盛」 清盛とファム・ファタールたち

 19歳の平清盛は、瀬戸内海の海賊退治の際、流れ矢に当たって死んだ娘のことを忘れられずにいた。そんなある日、四の宮らの言葉からから、自分が父・忠盛の子ではなく、白河法王の子であることを知ってしまった清盛は、大きなショックを受ける。嘆き悲しむ中、あの娘に似た娘と出会った清盛は…

 先日は児童文学の世界での平清盛ものを紹介しましたが、もちろん、一般書籍の世界でも清盛ものは様々に刊行されています。

 この「波に舞ふ舞ふ」もその一冊ですが、作者は瀬川貴次。
 ライトノベル、特に少女小説で、活躍しており、特に平安時代を舞台としたコミカルな伝奇もの、ホラーもので知られる作者だけに、見逃せず手に取ったのですが…これがなかなか意外な、清盛の青春時代を描いた佳品でありました。

 本作で描かれるのは、19歳から22歳にかけての清盛。この頃、清盛が父・忠盛とともに瀬戸内海の海賊を退治して名を上げたのは史実のようですが、本作においては、その際のある事件が、彼の心に長く尾を引くこととなります。

 それは、海賊退治の際に水先案内を買って出た厳島神社の宮司の娘が、彼の目の前で流れ矢に当たって命を落としたこと。
 接点はほとんどなかったにも関わらず、以来、清盛の心の中にその杏仁形の大きな目をした娘の姿が残り、夢にしばしば登場するまでとなります。

 とはいえ、所詮は夢の中の話。人に打ち明けることもなく、まずは平穏に日々を送っていた清盛は、しかし、自らの存在に関わる秘密を知ることとなります。
 町で源氏の侍に絡まれていた少年・鬼若(その正体は…)、親友で洒脱な武士・佐藤則清、そして今様狂いで不思議な言動を見せる幼き四の宮(後の後白河天皇)――彼らの言葉の端々から、清盛は、自分の実の父が、今は亡き白河法王であることを知ってしまうのです。


 …というわけで、本作でもまた、清盛の出生が大きな意味を持ってくることになるのですが、本作においては、それを彼自身が知るのが、少々遅いというのが、特徴かもしれません。
 当時の二十歳前後と言えば立派な成人、子の一人二人いてもおかしくない年代であります。そうであれば、己の出生の秘密もショックなく受け止めることができる…わけでもありません。
 むしろ、己の生きるべき道、人生の有り様がある程度見えてきたこの年代こそ、己の存在の根幹が揺らぐことに強く苦しむことになるというのは、納得できるものがあります。

 そして、本作において清盛がその巨大な悩みと向き合う中で、大きな意味を持ってくるのが、彼を取り巻く女性たちというのがなかなか面白い。
 夢に現れる件の娘、彼の最初の妻となる高階基章の娘・佐用、彼にとっては妹のような存在の平時信の娘・時子、そして彼の周囲(の男たち)に様々な陰を落とす待賢門院璋子――
 いずれも、彼にとっては様々な意味でファム・ファタールたる女性たちと出会う中で、清盛が少しずつ人として成長していく――というより自分自身を再発見していく――姿が、本作では瑞々しく描かれていくこととなります。

 その姿は、あくまでも等身大の青年であり、後に太政大臣にまで上り詰めた大器や大望といったものは、実は本作では描かれません。
 その点に不満を抱く向きもあるかもしれませんが、むしろ、その後の姿に眩まされて見えてこない若き日の清盛の物語が示されることに、新鮮な魅力があります。

 作中で四の宮が清盛に語るように、「物語を創るのは、いつも生き残った側」であり、「それが生者の特権」であるのならば、このような形で清盛の物語が創られることも許されるのでしょうから――


 ちなみに、作者は妖怪ものの名手。しかし本作ではその辺りはさすがにないか…と思いきや、意外な形で物の怪たちがユニークな姿を見せてくれるのがなかなか楽しいところです。
 ある意味読者サービスではありますが…

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波に舞ふ舞ふ 平清盛 (集英社文庫)

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