「源氏物の怪語り」 物の怪と、物語と、自分自身と
中宮彰子に仕える藤式部(紫式部)の傍らには、彼女が幼い頃に亡くなった姉がいた。娘の賢子に取り憑いた姉に守られつつ、彼女は周囲の女性たち――伊勢大輔・和泉式部・中宮彰子・赤染衛門――が出会った不思議な事件に巻き込まれることになるのだった。
「陰陽ノ京」「同 月風譚」の渡瀬草一郎の新作は、同じ平安時代を舞台としつつも、趣をがらりと変えたユニークな作品であります。
何しろ、主人公は「源氏物語」を執筆中の藤式部(紫式部)。その彼女が、娘の体を借りて現世に現れる亡き姉とともに、周囲の女性たちが巻き込まれた物の怪絡みの事件と対峙していくのですから…
しかしこう書くと、よくある(?)ゴーストハンターもののように感じられるかもしれませんが、陰陽師ものとしても破格の作品である「陰陽ノ京」シリーズの作者が、そんな凡手を打つわけがありません。
本作の中心となるのは、彼女と、その周囲の四人の女性たちの生き様なのですから。
本作は、四季それぞれを舞台に、四人の女性が巻き込まれた怪異を描く物語から構成されます。
夜ごとの巨大な桜と蜘蛛の夢に惑う伊勢大輔、夢枕に立つ男の霊に悩む和泉式部、出産を前に己の心の中に迷う中宮彰子、己の過去への悔恨に囚われ苦しむ赤染衛門…
いずれも歴史上に名を残した才女たちが出会う物の怪たちの謎を藤式部と姉は解き明かし、彼女たちを救っていくのであります。
そんな物語の中で描かれるのは、怪異以上に、彼女たち一人一人が心の中に抱えた翳り、悩みの数々であります。
己の夢に、恋に、将来に、そして過去に――つまりは、己が己であることに悩み、その想いが物の怪を招く。
そして、物の怪が、その迷いの産物、象徴であるとすれば、彼女たちが残す文学作品、特に歌は、それと相対するアイデンティティの象徴とも言えるでしょう。
彰子を除けば現代には本名も伝わらない彼女たち――しかし彼女たちには、現代にまで残る歌があるのであり、それを通じて我々は彼女たちの想いを確かに知ることができるのですから…
登場する怪異、物の怪がいずれも小粒という印象はあります(もっとも、小粒である必然性はあるのですが)。登場する女性たちのキャラクターが、あまりに現代的、という印象も少なからずあります。
それでもなお、本作のスタイルと、それを通じて描こうとするものは魅力的であります。 物の怪と、物語と、自分自身と…あやふやで確からしい、そんなものたちの存在の愛おしさを、本作は教えてくれるのですから。
ちなみに本作に脇役で登場する陰陽師・安倍時親は、晴明の子の吉平のそのまた子供。
「陰陽ノ京」でもお馴染みの吉平ですが、その子がこんな性格なのは、母親の方に似たのかな…と思ったら、作者ご自身がつぶやいていて、吹き出しました。
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