「えどたん」 探偵の目で江戸を見る
推理小説ファンの高校生・天道未来は、落雷とともに230年前の江戸時代にタイムスリップしてしまう。そこで殺人事件に巻き込まれた未来は、自分の先祖で南町奉行所の同心・天道今一とともに事件解決に奔走することとなる。それ以来、未来は次々と難事件に巻き込まれることに…
タイムスリップもののサブジャンルと言いましょうか、「現代人がタイムスリップして、現代の科学や知識を利用して活躍する」作品群があります。
おそらくその元祖は、マーク・トゥエインの「アーサー王宮廷のヤンキー」辺りではないかと思いますが、我が国の時代ものにも、もちろんそうした作品が決して少なくない数存在するのです。
本作「えどたん」も、そんな作品の一つ。偶然(?)、江戸時代にタイムスリップしてしまった推理小説ファンの高校生が、江戸の探偵――すなわち「えどたん」として活躍するオムニバス・アドベンチャーゲームです。
わけもわからぬままに安永7(1778)年の江戸に現れてしまった主人公・天道未来。
ところが彼の目の前には殺された岡っ引きの死体が転がり、彼はいきなり捕らえられる羽目になってしまいます。
しかも彼を捕らえたのは、ご先祖に当たる常町回り同心・天道今一。何とか事件を解決し、濡れ衣を晴らした未来は、今一の家に転がり込んで、時に好奇心から、時に正義感から、様々な事件に挑んでいくことになる…
というのが本作の基本設定であります。
ごくごく普通の現代の高校生である未来の武器になるのは、推理小説仕込みの推理術と、自分と一緒に江戸時代にやってきたアイテム(警察の鑑識官である父に荷物を届けに行く途中でタイムスリップしたという設定)。
「未来の科学で捜査」というわけで指紋やルミノール反応を駆使して、江戸時代であれば迷宮入りな事件のカラクリを解き明かしていく…というのが本作の魅力の一つと言えるでしょう。
しかしそれ以上に楽しいのは、江戸時代の知識は学校の授業で教わる程度しかない――すなわち、文化・風俗・社会制度等についてはほとんど知らない――未来が、事件の捜査の中で様々な江戸時代のナマに触れていく部分であります。
奉行所のような治安維持体制、芝居小屋といった娯楽、庶民と武家の様々な違い等々…時代ものファンであればお馴染みの知識ばかりですが、しかし主人公のような、そしておそらくプレイヤーの大多数にとっては、ほとんど異世界に近い江戸時代に関する知識。
本作では、これらを、大げさにいえば主人公の目を通じて追体験することができるわけです(この辺り、否応なしに目の前の事物を精査しなければいけない探偵もの、というジャンルは実に適していると感じます)
そもそも、現代人が過去にタイムスリップする作品の肝は、現代人が現代の知識を使って過去で大活躍する点だけではなく、現代人が過去の事物に直接触れることによるカルチャーギャップ(そしてそれによる成長と相互理解)にあるのではないでしょうか。
本作もその基本に忠実に、現代(未来)と過去の出会いから生じる、双方向の作用を描いているのであります。
実のところ、時代ものとしてそれほど深いところまで突っ込んでいるわけではなく、謎解きとしてもかなり簡単な部類に入ります(今時このトリックはないだろう、と突っ込みたくなるようなものもありましたし…もっとも、作中でもスタッフからも同様に突っ込まれているのですが)。
もともと携帯電話向けのゲームだったためか、ゲーム的にも、ほとんどコマンド総当たりでクリアできるものであります(更にいえば、UIもそれほど良いとは言えません)。
それでも本作を最後まで楽しくプレイできたのは、さすがこのメーカーらしい、ツボを押さえた個性的なキャラクターたちの描写・設定と物語展開があることはもちろんであります(特に終盤、実は主人公の存在が…となる辺りは、実に面白い)。
しかしそれ以上に個人的に嬉しかったのは、上に述べたようなタイムスリップものの基本をきちんと押さえた、丁寧な作品であったからにほかなりません。
時代ものやミステリのマニアにはどうかと思いますが、それらに興味のある方が気軽に触れる分には、実に楽しい作品…
こういう作品があっても、もちろん良いと思います。
ちなみに本作は続編が発表されており、先日完結したばかり。
私が本作をプレイしたiOS版の続編はまだのようですが、発売されれば、もちろんプレイするつもりです。
「えどたん」(カプコン iOS用ソフトほか)
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