「信長のシェフ」第3巻 戦国の食に人間を見る
戦国時代にタイムスリップした現代の青年シェフ・ケンが、かの織田信長の下で、料理人として腕を振るい、生き抜く様を描いた「信長のシェフ」第3巻であります。
この巻のメインとなるのは、対浅井・朝倉戦。信長の生涯の中でも有数の危機的な状況の中で、ケンが活躍することになります。
織田・徳川連合軍が朝倉家を攻めたことで、信長との同盟を破棄して急襲をかけた浅井長政。朝倉と浅井の挟撃という絶対の窮地での織田・徳川軍の戦いは、金ヶ崎の退き口として知られますが、その中でケンはただ一人、信長の供として撤退することになります。
その中でもなかなか面白い形でケンの料理の腕が発揮されることとなるのですが、しかしケンの料理人としての戦いはむしろこれからであります。
戦いは、単に合戦の形でもってのみ行われるものではありません。その前後、大名家と大名家の間で行われる外交交渉もまた、形を変えた戦いの場。
特に敗北に等しい撤退を行った信長にとっては、周囲へのフォローが重要となります。
そしてまずフォローを行うべき相手は、同盟者である徳川家康――ということでケンが最初に向かうこととなったのは家康の元。
料理をもって、過去を思い出させ、人の心を動かすというのは、グルメ漫画の定番展開ではありますが、信長と家康という、複雑な過去を共有する二人を対象とすることで、ここではなかなか味のあるドラマになっていると感じます。
(それにしても、ここでケンが作るのがあの料理というのは、皮肉が効きすぎている感もありますが…)
そしてその後、堀秀村への調略を経て、ケンが挑むのはこれまでにない難問。
朝倉家の料理人に化けて小谷城に潜入、長政とお市の前で料理の腕を振るうという、あまりにも危険なミッションであります。ここではもちろん伏せさせていただきますが、その結果や如何に――
さて、信長のシェフとして縦横無尽の活躍を見せるケンですが、彼の姿から改めて感じさせられるのは、「食べること」は、その人間の営みの中で最もプリミティブなものであるが故に、大きくその人間の考え・行動に影響を与えるということであります。
もちろんこれは当たり前のことではありますが、ケンが料理の腕を振るう相手が歴史上の人物であり、その場が歴史上の事件であることが、その当たり前を、よりインパクトのあるものとして見せてくれるのです。
そしてもう一つ、たとえ現代とは全く異なる血なまぐさい時代に見える戦国においても、人間はあくまでも人間なのだということもまた…
本作の価値は、その取り合わせの面白さ以上に、こうした点を再認識させてくれることにあるのかもしれません。
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