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2012.03.01

「闇の射手 左近 浪華の事件帳」 在天別流であることの意味、在天別流の意味

 大坂の町で相次ぐ若い娘を狙った拐かし。娘を救うべく奔走する在天別流の男装の美剣士・左近は、探索の中で「左近」という男を捜す水野忠邦の旧臣・天宮一馬と出会う。在天別流らしい「左近」の存在に心騒がされる左近。果たして一馬と「左近」の過去とは、そして短筒を手にした拐かしとの関係は…

 TVドラマ化もされた「緒方洪庵 浪華の事件帳」シリーズのスピンオフ、男装の美剣士・左近殿が活躍する「左近 浪華の事件帳」シリーズの待望の続巻であります。

 大坂の町に跳梁する、若い娘を拐かしては親元に多額の身代金を要求する非道な一味。大坂の闇の守護者たる在天別流にとっては見過ごしにできぬ一味に挑む左近ですが、しかし敵は、意外にも当時の日本では滅多に手に入らぬはずの短筒を持ち、背後にはなにやら巨大な影をうかがわせます。

 辛うじて救い出した娘が哀しい最期を遂げたことから、まだ捕らわれたままの娘を救うべく奔走する左近ですが、事態は好転せず、左近には娘の親元や許嫁から冷たい目を向けられる始末。
 そんな中、時の京都所司代・水野忠邦の旧臣という浪人・天宮一馬と出会ったことから、左近は更なる混迷に足を踏み入れることとなります。

 かつて「左近」と名乗る友がいた一馬。しかし水野家と大坂商人の間で生じた争いの中で「左近」は一馬を裏切り、姿を消したのでした。
 一馬に聞かされた言動からすれば、「左近」は紛れもなく在天別流の男。しかしそれであれば、なぜ「左近」は一馬を、大坂の民を裏切ったのか?
 過去と現在、二つの事件は意外な繋がりを見せることとなります。


 今回、左近が物語の中で様々な角度から突きつけられるのは、自分が在天別流であることの意味、そして在天別流そのものの意味であります。

 千年の昔から大坂の町を守ってきた闇の守護者・在天別流。その一員であることに強い誇りと執着を抱く左近は、しかし、拐かし事件の中で、自らの無力を、そして自分たちの存在と行動が、自分たちが守っているはずの人々に必ずしも受け入れられているわけでないことを知ります。

 それに加えて、「左近」という男――在天の人間と思われながらも、当時の長に反発し、在天の方針とは異なる行動を取ったという男。そして最後には大坂の町の人々を裏切ったという男の存在が、彼女を悩ませることとなるのです。
(正直なところ、「左近」の正体は、こちらには一目瞭然なのですが、それはさておき…)

 物事に絶対ということはない、というのは、大袈裟に言えばこの世の真理の一つであります。我々が人生の様々な局面で悟るこの真理を、左近は今回、事件を通じて知ることになるのです。
 一見単純に見えた今回の事件の真相、過去と現在にまたがるその真相もまた、その真理を体現したものといえるでしょう。


 しかし、我々が生きていく上では、その真理を乗り越えることが必要なのもまた真理。
 全ての悩みが、問題が一度に解決するわけはないにせよ、左近も一歩一歩前に踏み出していくこととなります。

 「緒方洪庵 浪華の事件帖」では、主人公・章(後の洪庵)を導く、一種完成したキャラクターとして登場した左近。
 そんな彼女にもこんな時代があったというのは、何とはなしにうれしく感じる…というのはおかしな感傷でしょうか。


 さて、左近のドラマばかり触れてしまいましたが、史実との関わりも、これまで同様、本作においても背景として、描かれています。

 物語の当時、京都所司代を勤めていた水野忠邦。その存在は前作でも触れられていましたが、本作ではより物語に、そして在天別流に近い形で関わってくることとなります。

 おそらくはこの先、さらに密接に関わってくるであろう彼の存在が、左近の生き方に如何に関わってくることとなるのか。
 その点も楽しみなシリーズなのであります。

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