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2012.03.16

「お江戸ふしぎ噺 あやし」 見事なり皇版江戸怪談

 皇なつきが、「コミック怪」誌に連載していた、宮部みゆきの「あやし」の漫画版「お江戸ふしぎ噺 あやし」が刊行されました。
 「あやし」収録作のうち、「梅の雨降る」「時雨鬼」「灰神楽」「女の首」「蜆塚」を漫画化したものが収録されております。

 宮部みゆきの「あやし」については、少し前にこのブログでも紹介いたしましたが、江戸時代を舞台に、ごく普通の人々が、日常の裂け目に現れた怪異と出会う姿を描く短編集であります。
 いずれも派手ではありませんが、それだけに生々しく描かれる怪異と、それと表裏一体の人の世のあり方には、読んでいて幾度もゾクゾクさせられる…そんな名品揃いであります。

 さて、そんな「あやし」を皇なつきが漫画化するというのは、個人的には少々意外な組み合わせでした。
 というのも、皇なつきと言えば、やはり中国ものという印象が強い作家。惜しくも未完に終わった「夢源氏剣祭文」を漫画化したり、時代小説の挿画を描いた例はありますが、どうしても江戸庶民の世界とはかけ離れた印象があったのです。

 …しかしながら、それが私の浅はかな考えに過ぎなかったことは、本書を一読すれば明らかでありましょう。
 「梅の雨降る」「時雨鬼」「灰神楽」「女の首」「蜆塚」…いずれの作品も、舞台となる江戸の町を、そしてそこに暮らす人々の姿を、そして何よりも、そこに現れる怪異の姿を、時に静かに、時に力強く描き出しているのですから。

 特に目を奪われるのは、怪異の描写であります。
 原作の「あやし」自体、人の心の綾を描く部分が多く、怪異そのものは、描かれるとしてもほんの一瞬。それだからこそ、その一瞬を如何に描き出すか…それがホラーとしての肝であるとも言えます。

 そして、この漫画版では、その一瞬の描写が、一瞬のインパクトの描写が、見事の一言。
 その画力は言うまでもないことながら、それを如何に漫画として提示してみせるか――単なる絵として描くだけではなく、物語が動き流れる中で、その一部として如何にそれを配置し、浮かび上がらせてみせるか。その点が巧みなのであります。

 収録作品のうち、それを最も強く感じさせられたのは「時雨鬼」でしょう。
 直接的な怪異はほとんど描かれない本作(そもそも原作の構成自体がほとんど会話劇に近く漫画化が難しいように感じられるのですが)。その本作において、現れた怪異を直接描くことなく、そして現れなかった怪異を描き出すという手法によって、この漫画版は、原作とはひと味違った、そして原作に忠実な怪異の姿を描き出しているのであります。


 原作の「あやし」に収録されたのは全9編。ここで漫画化されたものはそのうちの5編。
 全てを漫画化して欲しい…とまでは申しません。しかし、まだまだ皇版江戸怪談の姿を見てみたい、という気持ちは、強く残った次第です。

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関連記事
 「あやし」(その1) 人の中の鬼
 「あやし」(その2) 人の想いが生む鬼
 「あやし」(その3) 閉ざされた世界の鬼

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