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2012.03.26

「兵法柳生新陰流」(その二) 兵法の裏の裏

 五味康祐の「兵法柳生新陰流」収録作品紹介のその2であります。

「新陰崩し」

 江戸の柳生屋敷を窺う謎の男女。彼らは卍教を信奉する山の民だった。果たして彼らの目的は何か。そして柳生新陰流との関係は…

 まず間違いなく、本書に収録された中で最も伝奇色の強い作品の一つが本作であります。
 柳生新陰流を敵視し、密かに付け狙う男女――彼らこそは、卍教を信奉する院内(いんのこ)の民。
 山に棲む彼らが何故柳生新陰流を敵視するのか? それが本作の中心となります。

 柳生石舟斎により生み出された柳生新陰流。それを更に上流に遡れば、上泉伊勢守の新陰流、そして愛洲移香斎の陰流に行き着くのは、剣豪ファンであればご存じの通りであります。
 しかし、愛洲移香斎までいくともはや伝説レベルの人物。その移香斎が、果たしてどのように陰流を生み出したのか?

 院内の民が柳生新陰流を敵視するその理由が、あまりにも突飛なものと見えて、クライマックスで真相が明かされる、その描写が実に見事であります。


「刺客」

 家康に、腕利き一人を差し出すよう命じられた宗矩。狙う相手は、かつて家康に仕え、後に尾張義直に仕えた男の子だったが…

 五味康祐の短編は、導入部でまず引き込まれるものが多くあります。
 宗矩が「勝った上で死んでもらう」ために腕利き一人を差し出せと家康から命じられるという本作もその一つ。

 その腕利きが刀を振るうことになるのは、かつて家康に仕え、後に尾張義直の家臣となった名物男・奥村一平の子・左近太。
 義直から請われて家康の下から尾張に移ったものの、すぐに何者かに討たれたという一平の仇を討つため、義直を狙うという左近太に対して、柳生新陰流が刺客として使われることとなるのです。

 尾張柳生との生臭い軋轢もあり、自ら出馬することとなった宗矩が知った真実は、なかなかに苦いもの。
 一平が左近太に遺したという「一万石一粒欠くるとも仕官はするな」という言葉(これは石舟斎の兵庫介への言葉のもじりかと思いますが、ここは奇しくも同じような言葉を寄せられた者同士の死闘という皮肉と見るべきでしょう)、そして「刺客」という題名が、重く胸に残ります。


「曙に野鵐は鳴いた」

 富田越後守を翻弄して逃れたという小者。その小者と前田家の豪傑・不破勘左衛門との出会いが思わぬ波紋を生み、数多くの流血を招く。

 本書の前半のラストを飾るのは、それに相応しい大作。小太刀の富田流と尾張柳生、そして江戸柳生、三つの流派が複雑に絡み合う、短編ながら長編なみの歯応えのある作品です。

 前田家に仕えた富田流の名人・富田越後守が、奉公していた小者を手討ちにせんとしたのが逆に戸板で雪隠詰めにされ、逃げられたというエピソードは、剣豪ファンであればお馴染みかもしれません。

 本作はこの椿事の直後から始まります。
 富田家から逃れた小者と出くわしたのは、前田家の名物男・不破勘左衛門。何と駆け落ち途中だった彼は、その場は小者を見逃すものの、その正体が主家を探る隠密と見て、小者を追って旅立つことに。
 そして旅の途中の勘左衛門と知り合った神戸新十郎と名乗る若い武士は、勘左衛門の話を聞いてある決意を固めるのですが…

 ユニークで、しかし冷静に考えれば不気味な冒頭のエピソードから、物語は二転三転。柳生十兵衛、高田三之丞まで登場し、落としどころも全く見えぬままに展開し、意外な結末を迎えることとなります。

 果たして小者の正体は、そして何故富田家に奉公していたのか。その謎の先にあるのは、綺麗事だけでは済まされぬ、剣の世界の裏の裏側の凄まじさであります。
 五味剣豪小説の面白さが最もよく現れた作品の一つと言って良いのではないでしょうか。


 続きます。

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