« 「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は | トップページ | 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »

2012.03.28

「兵法柳生新陰流」(その三) 柳生新陰流隠密行

 五味康祐の「兵法柳生新陰流」収録作品紹介、その3は、柳生十兵衛が登場する3つの作品を取り上げます。

「火と剣と女と」

 謎の易者・赤兎道人の邸に潜入するも捕らえられた十兵衛。からくも脱出した十兵衛は道人の背後の加賀藩に潜入を試みるが…

 「柳生武芸帳外伝」と副題が付された本作は、かの大作と直接の繋がりはないものの、隠密としての柳生新陰流、陰謀家としての柳生宗矩を描いたという点では共通しています。

 江戸で評判の易者・赤兎道人の存在に不審を抱いた宗矩の命で、道人の邸に潜入したものの、短筒の前に捕らわれた十兵衛。
 しかし道人一味は十兵衛に危害を加えることなく、数日後に文字通り花火を打ち上げて自爆して果ててしまうのでした。

 辛くも逃れた十兵衛は、道人の背後にいたと覚しき加賀藩の奥地に潜入を試みるのですが、そこには加賀藩の罠の数々が…

 十兵衛が突如家光のお側から退き、以後の消息がしばらく不明になったのは有名なお話。巷説では隠密になったと伝えられますが、本作でもその説を取っています。
 しかし、十兵衛が潜入した先が、前田利常の加賀藩というのが面白い。外様でありながら百万石を守り抜き、そして剣で言えば柳生新陰流の強敵・富田流を奉じる加賀前田家は、なるほど十兵衛が挑む先に相応しいものがあります。

 江戸では手に入らぬ良質の硝石を大量に蔵していた道人の正体は、そしてその硝石はどこから来たのか? その謎の先にあるのは、何とも意外な結末であります。

 前田利常にまつわる、あるユニークな逸話が、全く別の意味を以て描かれるのには、大いに驚かされました。なるほど、あの宗矩が一杯食わされるわけです。
(ちなみに本作では、その宗矩の恐るべき陰謀の存在が推理されるのですが…いやはや)


「居斬り」

 津軽藩に現れた謎の剣客。彼を十兵衛と睨んだ家老は、津軽藩の秘密兵器・居斬り勘解由を十兵衛に当てようとするが。

 隠密として全国を旅したとも言われる十兵衛ですが、多くの作品では、北に行ったとしても伊達藩までというのがせいぜい。そんな中、本作では津軽藩に姿を現すというのは、なかなか珍しいといえます。

 しかし津軽藩は、南部藩との間に血で血を洗う因縁を抱えた、ある意味東北の火薬庫。そこに十兵衛が現れるというのは、これはこれで頷けるものがあります。

 本作に登場する津軽藩の剣士・居斬り勘解由は、敗北続きの津軽が南部に一矢報いるための秘密兵器。
 しかしその剣は、南部の前に、隠密と疑われる十兵衛に向けられることとなるのであります。

 正直なところ、本作の仕掛けについてはすぐに予想がついてしまうのですが、しかしそれはごく一面。
 何よりも、勘解由が最後に選んだ道が、その背後の意外な事実も相まって、何とも考えさせられるものがあるのです。


「無明斬り」

 主君・京極高広の暴戻により妻を失い、隠居した堀井三左衛門。釣りに明け暮れる彼は、ある日藩内を探る武士と出会い…

 藩主が家臣の妻を奪うというのは、戦国時代に比べればさすがに少ないはずですが、江戸時代でおそらくは皆無とも思えない話。
 本作の中心人物・堀井三左衛門の妻も、京極高広に目を付けられ、これを厭うて命を捨てることになります。

 しかし昼提灯で知られた三左衛門は、これをさして気にした風もなく、隠居して釣りに明け暮れる毎日を送るのですが…

 名門・京極家を継ぎながらも虐政により領民に恨まれ、その子の代で家を改易された京極高広。
 本作では、その高広により運命を狂わせられた男の姿を描かれるわけですが…それで終わるわけがないのが五味柳生もの。

 三左衛門の物語の背後では、ある野望のために高広を利用せんとする宗矩と、京極家の暗闘が描かれることになるのです。

 その中で振るわれる三左衛門の秘剣の名こそが、本作の題名となっている無明斬りなのですが――
 最後までその本心の見えぬ男が振るうに、誠に相応しい剣ではありませんか。

 あともう一回続きます。

「兵法柳生新陰流」(五味康祐 徳間文庫) Amazon


関連記事
 「兵法柳生新陰流」(その一) 流浪の柳生新陰流

|

« 「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は | トップページ | 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/54306548

この記事へのトラックバック一覧です: 「兵法柳生新陰流」(その三) 柳生新陰流隠密行:

« 「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は | トップページ | 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール »