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2012.03.25

「兵法柳生新陰流」(その一) 流浪の柳生新陰流

 私が五味康祐の剣豪小説、なかんずく柳生ものの面白さを初めて知ったのは、今から20年ほど前に読んだ「無刀取り」「無明斬り」の2冊の短編集でした。
 本書「兵法柳生新陰流」は、その2冊の収録作品を年代順に再編集したもの。これから収録された12作品を紹介していきたいと思います。

「村越三十郎の鎧」

 武断派の武将に襲撃され、伏見の家康の屋敷に逃げ込んだ三成。家康を斬るために屋敷に潜入した柳生兵庫介助が見たものは…

 タイトルとなっている村越三十郎とは、小栗栖で明智光秀が竹槍で刺されたときに一歩前を歩いていた人物。彼と光秀の歩く順が逆であれば、あるいはその後の歴史は今と変わっていたかもしれないという人物です。

 この人物に関する谷崎潤一郎と岸巌の会話の引用から始まる本作は、その導入部に負けない意外な展開の連続。
 関ヶ原以前に、武断派の武将七人が石田三成を襲撃し、三成がこともあろうに敵対する徳川家康の屋敷に逃げ込み、難を逃れたというのは有名なエピソードですが、本作はこれを背景に展開されます。

 その三成の腹心・島左近の依頼により、その混乱の中で徳川家康の暗殺を狙うは、後の尾張柳生の祖・柳生兵庫介。
 一方、家康を陰ながら守護するのは、言うまでもなく柳生宗矩――
 ここに、三成と家康の対立が、柳生新陰流同士の激突に繋がっていくのであります。

 しかし本作の見事な点は、さらにそこから一歩踏み込んで、家康の深謀遠慮と、その皮肉な結末が描かれることでしょう。そしてそこに絡むのは、あの村越三十郎の鎧…
 歴史の分かれ道を象徴する人物が、再び意外な形で歴史の分かれ道に繋がる、その結末の見事さにはただただ唸らされるばかり。
 冒頭からいきなりの傑作であります。


「兵法流浪」

 諸国流浪の最中、会津の上杉家を訪れた柳生石舟斎・宗矩親子。そこで彼らは、取籠み者を捕らえるよう依頼されるのだが…

 柳生石舟斎が、柳生の地を秀吉に没収され、宗矩が家康に仕官するまで浪々の苦難を味わったのはよく知られた話。本作は、その流浪の中で当時会津を所領としていた上杉家を訪れた石舟斎と宗矩の姿を描く物語です。

 単なる流浪の腕自慢と見られ、上杉家で軽く扱われる柳生親子。ところが時を同じくして、射術の名手による立て籠もりが起きたことから、二人にその捕縛が依頼されることになります。
 人質の女性を傷つけることなく、首尾良く取籠み者を討った二人。しかし直江兼続は、二人への仕官の口として、雀の涙ほどの石高しか示さず…

 と、ここで描かれるのは、主家を持たずに流浪する兵法者の侘びしさ。天下の柳生新陰流が走狗の如く扱われる姿には何とも哀しいものを感じるのですが…
 もちろん、それで終わるわけがありません。やはり恐るべきは柳生新陰流、結末の兼続の呟きが皮肉に響きます。


「無刀取り」

 刀を抜かずに斬る秘剣により各地で腕自慢を斬る謎の男。その後を追う石舟斎・宗矩親子は、ついにその秘剣と対峙することに…

 秘剣により凶行を繰り返す怪剣士との対決というのは剣豪ものの定番と言えるでしょう。剣豪同士の決闘というのは、剣豪ものに不可欠な要素であり、そして秘剣の謎解きというのは、ミステリ的興趣でもって読者を引きつけてくれます。

 本作もそうした趣向の作品。すれ違いざまに、あたかも刀を抜かずに相手を斬る秘剣の遣い手と柳生親子が対決することとなるのですが…ここでもひねりにひねった物語となっているのが五味柳生ものであります。
 ここで描かれる無残な過去を背負いながらも、その戻らない過去のために剣を振るう凶剣士の人物像もさることながら、本作においては、彼の正体を知りながら、あえて放置する柳生親子の精神が凄まじいのです。

 特に、柳生石舟斎の生臭さは、この親あってこそ、後の宗矩がある…とすら言いたくなるようなレベル。
 本来であれば見事と称すべき「無刀取り」の存在すら霞みかねない石舟斎像であります。

 以降、続きます。

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