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2012.03.15

「茶坊主漫遊記」 探偵坊主の解いた謎

 時は寛永、諸国を漫遊しては各地で奇怪な事件を解決する一行がいた。地蔵のような小柄な老僧・長音上人と、容貌魁偉な従者・腐乱坊、口の減らない優男・彦七――そしてその後を将軍の秘命を受けた柳生十兵衛が追う。ある目的を秘めて旅を続ける上人の意外な正体とは、そして旅の果てに待つものは…

 様々なジャンルでユニークな作品を発表している田中啓文は、時代小説もものするのはご存じの通り。本作「茶坊主漫遊記」も、パロディを得意とする作者らしい、ユニークなアイディアが光る佳品であります。

 本作のタイトルにある「茶坊主」とは、主人公・長音上人のこと。丸顔で小柄な体を僧服に包み、唐傘を手にして従者の巨漢・腐乱坊と旅する人物――と聞いて、「おや?」と思った方はミステリファンでしょう。

 丸顔で小柄な体格、手には蝙蝠傘。相棒の名はフランボウ…そして本作を構成する五つの短編のタイトルは、「茶坊主の知恵」「童心」「醜聞」「不信」「秘密」とくれば、やや直球気味ではありますが、G・K・チェスタトンが生んだ愛すべき素人探偵ブラウン神父のパロディであることは明白であります。

 しかし、本作が単なるパロディ、焼き直しではないことは言うまでもありません。本作は短編集の態を取りつつも、それと同時に、一つの大きな時代伝奇ものでもあるのです。
 実は長音上人の正体は、歴史上のある人物の後身。関ヶ原の戦で活躍しながらも敗れ、斬首されたはずの人物が実は落ち延び、寛永年間まで生き延びていたのであります。
 そして将軍家光の密命を受け、上人を斬るためにその後を追うのは柳生十兵衛というのもたまりません(さすがに目に蜘蛛は飼っていませんが、ある人物のとの関わりにニヤリ)。

 関ヶ原から30数年、静かに出羽国に隠れ住んでいた上人が、何故水戸黄門チックに諸国漫遊を始めたのか?
 気の赴くまま、行く先々の怪事件を解決しているだけのようにも見える上人一行の旅は西へ西へ続き、驚くべき結末を迎えることとなります。


 短編集ということで、基本的にはライトミステリ的な味わいですが、しかし不可能殺人、謎の人物捜し、宝探し、(一種の)殺人の動機暴き…と、上人が解き明かす謎の種類は実にバラエティ豊か。
 登場人物も、レギュラー陣に加えてなかなかユニークなゲストが登場し、決して明るい内容ばかりではないのですが、最後まで陽性の物語を楽しむことができました。

 しかし何と言っても驚かされるのはラストのエピソードであります。
 西の果てで上人を、十兵衛を待つある人物。その名前を見れば、歴史好きであれば正体は一発でわかる…と思うのは、既に作者の術中に陥っている証拠。本作では最後の最後に、とてつもない伝奇的爆弾を用意しているのであります。

 冷静に考えると、ある意味いかにも作者らしい駄洒落的な着想ではありますが、しかしそれだけに(?)このアイディアは他では見たことがありません。
 そして何よりも、その人物が、本作の陰の主人公とも言うべき十兵衛のドラマに一定の解を与える存在となっているという構造がまた素晴らしいのであります。


 パロディや駄洒落を盛り込んでユニークな物語を展開しつつも、その中でキラリと、いやギラリと光るものを突きつけてくる――そんな田中啓文節は、本作でも健在であります。

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茶坊主漫遊記 (集英社文庫)

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