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2012.03.22

「UN-GO 因果論」(その二) 「因果論」

 會川昇による小説版「UN-GO 因果論」紹介の続きであります。
 前回は完全新作の「日本人街の殺人」部分を紹介しましたが、今回はいよいよ本編部分を取り上げましょう。

 この小説版の本編部分は、いうまでもなくアニメ版のノベライゼーションの形式を取っています。
 戦後の日本に帰ってきた探偵と因果が、新興宗教・別天王会の儀式の最中に信徒が謎の獣に襲われて死ぬ事件と、探偵の過去と因果との出会い、そして探偵が探偵となった理由が平行して語られ、やがてその二つが絡み合い、一つの物語を成す――
 そんな本作のストーリーは、「明治開化 安吾捕物帖」の第3話「魔教の怪」と、全く別の長編「復員殺人事件」を原案としたアニメ版と、基本的にほぼ同じものとなっています。

 以前このブログで紹介したように、私は既にアニメ版を劇場で見ております。しかし物語の結末を知っていても、それでもなお最後まで興味を失わずに本作を読むことができた、というより読まされました。その理由は、本書がアニメの内容をなぞっただけのノベライズに終わっていないからにほかなりません。

 もちろん、アニメのために最適化された物語を、小説として最適化する際に追加された要素(少年因果の原型となった人物や、探偵と真犯人の因縁など)、あるいはより詳細に語られた要素(虎山や速見の内面描写や、連合調整部や公共保安隊などの設定、そして何よりも人が因果の質問に一回だけ答えてしまう理由など)が興味深かった、というのはあります。
 しかしそれ以上に私を引きつけたのは、本作が、アニメで描かれた物語の根っこの部分をしっかりと踏まえつつ、それをより深化して(単なる追加や詳細化ではなく)描いていたからにほかなりません。

 ではその根っこの部分は、と言えば、それは會川作品の多くに共通してみられる要素――厳しい現実に押し潰されかけた人々、あるいはその現実の前に何とか立とうとする人々の姿…いや、本作の言葉を借りれば、そんな人々の心の叫びであると私は感じます。
 そしてその代表が、本作の主人公たる探偵であることは言うまでもありません。

 本作の中で描かれる現実は、もちろんフィクションの中の現実、近未来の戦後の世界という現実に過ぎない、と言えるかもしれません。
 しかし、原案が明治維新後を舞台としつつ、それと合わせ鏡のように第二次大戦後の現実を描いたのと同様、本作においては、近未来の戦後を描くことにより、現代の、一年前に生まれた、そして我々が今も直面している現実をその中に浮かび上がらせます。
(本作で最も印象的な箇所の一つである、探偵が過去に書いた作文が、この現実世界のどこかでも書かれている、あるいはこれから書かれるであろうことを私は疑いません。)

 既に「UN-GO」本編の感想の中でも述べてきましたが、本作は明治維新後、第二次大戦後、近未来の戦争後だけではなく、現代のあの災いの後の現実を含めた、四重の合わせ鏡なのであり――この小説版で追加された要素、より詳細に描かれた要素は、そのことをより明確に、より詳細に描くためのものであると…私はそう感じるのです。

 本作は、アニメ版を見た人間にとっても、そして本作を通じて「因果論」に、「UN-GO」という作品世界に初めて触れた方にとっても等しく、「因果論」という作品のみならず「UN-GO」という作品が描こうとしていたものを(アニメ版を見た方にはより深く)認識させてくれる作品なのであります。


 もちろん、アニメ版との相違点を、そのまま諸手を挙げて受け入れられるかといえば、必ずしもそうではありません。
 個人的には、物語の全ての要素が(やや唐突に)探偵と真犯人の二人の感情に集約された感のある本作のウェットなラストに、最初は違和感を感じました。

 しかしこれもまた一つの真実でありましょう。

 そして本作が、後に結城新十郎と呼ばれる探偵の真実を丹念に描いたものであり、そしてそれを通じて我々の現在を描き出した作品であること、そのことは紛れもない真実なのですから。


 それにしても――クライマックスで探偵が見たもの、それを告げる言葉を読むたびに、胸が張り裂けそうな想いに駆られます。あれほど哀しく、美しく、そして重い言葉はない。

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