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2012.04.06

「明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者」第2巻 明治が背負う断絶の向こうに

 明治初期の東京を舞台に、大店のじゃじゃ馬娘と、職を失った元忍びの一風変わったラブコメ(?)「明治失業忍法帖」、待望の第2巻であります。

 新しい時代にふさわしい生き方を模索しつつも、周囲の反対に手を焼くお嬢様・菊乃。そんな彼女の婚約者として親が決めた相手は、かつて幕府に仕えていた凄腕の忍びであり、今はのんべんだらりと市井に暮らす男・清十郎だった…

 やさぐれながらも実は馬鹿強い男と、世間知らずながら真っ直ぐでバイタリティ溢れる少女のカップルというのは、これは本作独自のものではない…というより、よくある組み合わせであります。
 しかし、本作がそんな印象を遙かに超えて、本作ならではの、本作でなければ味わえない境地に達しているのは、明治初期という舞台設定を存分に生かした人物描写・物語展開となっているからにほかなりません。

 何よりも、清十郎の屈託を抱えまくったキャラクター造形が面白い。
 時勢というものの力を厭というほど味わいながらも、虚無に落ちるわけでも、刹那に爆発するでもない。
 菊乃に対しても、一本気な彼女が現実に触れて苦しむ姿を見たいと望みつつも、その優しさに甘えることを楽しんでしまう…

 入り組んだ彼のキャラクターを、しかし決して作り物めいてみせないのは、彼が江戸と明治を跨いで生きる男であるという事実を、いささか変則的ながらも、男と女という普遍的な関係の中で浮かび上がらせて見せるからでしょう。
 そして、特に菊乃への感情の起伏は、少女漫画という媒体でなければ描けなかったのではないでしょうか。

(もちろんキャラクター造形の妙は、菊乃の側にも当てはまるのですが、清十郎のそれの方がより印象に残るのは、彼女のバイタリティが時として「漫画的」に映るためでありましょうか)

 そして、時代背景を背負ったストーリー展開も実にいい。
 主人公カップルが彰義隊が隠したという御用金騒動に巻き込まれるエピソード(清十郎が実際に彰義隊に参加していた姿を描いた1巻冒頭がここで活かされるとは!)も面白いのですが、さらに印象に残るのは、菊乃が女学校に入学してのエピソードです。

 念願叶って御茶ノ水女子師範学校に入学した菊乃が見たもの…
 それは、当時の女性にとっては最先端の世界に在りながらも、西洋の文化・風習と日本のそれの間で悩み、そしてそれ以上に、自分の身分的な、そしてなによりも地理的な出自に揺れる生徒たちの姿であります。

 もちろんそれは、現代日本であっても各地から生徒が集まる学校ではそれなりに見られるものではありますが、しかし、そこに維新の動乱が挟まると、途端に巨大な断絶が生じるのであります。
 なるほど、四民平等とはいえ、商家と武家の間には意識の溝は深く、そしてその両者の中でも、東と西でまた想いは異なります。
 特に、親世代が実際に血を流して戦った敵味方である武家出身の少女の間では。

 そしてもちろん、彼女たちの姿は、幕末を経てきた明治という時代の、一つの象徴であります。
 しかし、頭ではわかっていたつもりになっていた明治が背負ってきた「過去」の存在を、どれだけ本当に理解していたか…コミカルに味付けされた少女たちの対立の姿は、そんなことを我々に突きつけてくるのです。

 その「過去」を乗り越えるために、菊乃が清十郎から指南を受けた忍法(といっても、人の五情を刺激して動かすという一種の人身掌握術)で悪戦苦闘する、というのは本作ならではの味付けですが、それもまた面白い。
 何よりも、思いも寄らぬ大騒動になったその中に、菊乃と清十郎のキャラクターの違いが浮かび上がるというのもまた見事と言えます。


 まだ知る人ぞ知る、という印象はありますが、一風変わった――そして実に味わい深い――時代ものとして、そしてラブコメディとして、決して見逃せない作品であると断言いたします。

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