「御隠居忍法 刺客百鬼」 御隠居、御落胤と旅する
御隠居・鹿間狸斎の親友であり、娘の舅でもある新野耕民が急死した。耕民の死が、藩主のご落胤を巡る暗殺であったことを知った狸斎は、耕民の遺志を継ぎ、ご落胤を江戸の藩主の元に届けることとなる。しかし狸斎一行の行く手には、敵対する一派の刺客が次々と待ち受けていた。
東北の小藩・笹野藩に隠居した元御庭番の鹿間狸斎の活躍を描く「御隠居忍法」シリーズ第9弾は、シリーズのレギュラーキャラであり、狸斎の親友・新野耕民がいきなり殺害されているという展開。
長期シリーズにはままある展開ではありますが、シリーズ読者にとってはお馴染みの人物だっただけに、いささかショッキングではあります。
小藩でありながら、これまでも数々の内紛を抱え、狸斎もしばしばそれに巻き込まれてきた笹野藩(作中で「笹野名物ともいうべき家中の内輪もめ」などと表現されているのには本当に同感)。
これまでもしばしば狸斎を巻き込み、あるいは助け助けられてきた耕民が突然の死を迎えたのもこの争いのためですが…今回の争いは、病身の藩主を巡る後継争いというのが根深い。
狸斎は、耕民の最期の願いを背負い、まだ幼いご落胤・三之助を江戸に送り届ける旅に出ることになります。
しかし敵側もこの動きを察知、藩内はおろか、江戸に至るまでの道中も刺客だらけ…「家中ことごとく敵、(中略)ことごとく刺客と思ったほうがよい。百鬼が刺客となって襲いかかる」という、タイトルの「刺客百鬼」という状況に相成ります。
と、タイトル、冒頭の展開ともなかなかインパクトのある今回なのですが、全体的な内容自体はかなり地味という印象。
前作ではほとんど傍観者だった狸斎が、八面六臂の活躍をしてくれるのですが、どこか人物描写や物語展開が淡々としているため、正直なところ物足りない想いが残ります。
(もっとも、淡々とした描写は作者の持ち味のような気はしますが…)
狸斎を助け、心ならずも同じ藩士と敵対することとなる老剣客・研総の心の揺れや、実の子ともしたことのなかった旅をご落胤の少年とすることになった狸斎の複雑な心境など、作中では一応触れられてはいるのですが、もう少し突っ込んで描いても良かったのではないか…と感じた次第です。
ちなみに――これは作者のあとがきでも触れられているためではありますが――作中で狸斎一行が、浜通りや浪江、相馬といった地名を旅する場面には、何とも言えない想いを抱いてしまうのですが…これは余談。
「御隠居忍法 刺客百鬼」(高橋義夫 中央公論新社) Amazon
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