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2012.04.24

「忘れ簪 つばめや仙次 ふしぎ瓦版」 心の翳りと運命の残酷と

 人魚が出るという噂で野次馬がごった返す大川で、一人の武士の死体が浮かび、その後も武士の不審死が相次ぐ。さらに、仙次と梶之進の幼なじみのお由有とその父も姿を消してしまう。謎を追う仙次の前に現れるのは、人の不幸ばかりを載せた黒瓦版を売り歩く謎の童子。果たして事件の真相は…

 高橋由太の「つばめや仙次 ふしぎ瓦版」シリーズ第2弾であります。
 表紙イラストに「猫絵十兵衛 お伽草紙」の永尾まるを迎えた本シリーズは、作者の他の作品に比べると、シリアス度、ミステリ度が高めの内容。
 この「忘れ簪」も、なかなかに重い内容の一編であります。

 深川の薬種問屋つばめやの次男坊・仙次は、ぶらぶらしながら怪事件専門の瓦版を作っては売り歩く極楽とんぼ。。しかしそうした事件を扇情的に扱うのではなく、好きだからこそ偽物は許せず、徹底的に検証してしまうという、一種の変人であります。

 今回は、大川で人魚が出現したという噂を聞いて、その裏に怪しいものを感じて首を突っ込む仙次ですが…しかし、武士が何人も死んだ上に、川辺の茶屋を手伝っていた幼なじみで密かに(?)想いを寄せるお由有と、その父が行方不明になったと知り、その裏を探るために奔走することとなります。

 そして、事件をさらにややこしくさせるのが、謎の「黒瓦版」の存在であります。
 百年近く姿が変わらないという謎の童子・千代松が売り歩く、人の不幸ばかりが載っているという「黒瓦版」。実は仙次の過去とも浅からぬ因縁を持つ、この黒瓦版に、今回の事件が予言されていたというのですが――
 かくて仙次と親友の剣術馬鹿・梶之進は、深川にわだかまる闇の中に踏み込むこととなります。


 本作は、その帯等で「大江戸活劇」「新感覚時代ミステリー」と謳われています。
 ジャンル・内容的にそれは間違いではありませんが、しかし、その要素(のみ)を期待すると、ちょっと外されるのではないか、と個人的には感じます。
 もちろん活劇要素もミステリ要素も本作にはありますが、前者は本作のメインではなく、そして後者は、厳しい言葉を使えば構成的に破綻していると――

 しかし、それでもなお私は本作に大いに魅力を感じます。
 それは、本作の終盤で明かされる事件の真相…そこに描かれる、残酷で、醜く、そして哀しく切ない人間の姿が、心の琴線に響くためであります。

 一連の事件の背後にあるもの――タイトルの「忘れ簪」に象徴されるそれについて、ここではもちろん詳細には述べません。
 しかし、そこに込められているのは、己の心の翳りと、そして己の力ではどうにもならない運命の残酷に絡め取られた人々の心の点描なのです。

 そしてそれを横糸とすれば、縦糸となるのは、千代松をはじめとする深川鬼通りに集う、(常)人の世からつまはじきにされた者たちの心の叫び。
 人として生まれながらも、人として扱われず、そして自らも人であることを捨てた者たちの悲しみが、今回の事件の背後には存在します。


 高橋由太の作品は、妖怪をはじめとする個性的なキャラクターが、コミカルな騒動を繰り広げるという印象があります。
 もちろんそれは間違いではありませんが、その裏側には、人の心の中の昏い領域の存在と、人ならざる者、人でなくなった者たちの悲しみが存在していることは忘れてはなりますまい。そして本作においては、その側面を描くことに、より筆が費やされているのであります。

 正直なところ、本作は特に謎解き部分の構成には無理があると感じますし、仙次のキャラクターもまだまだ掘り下げはできると感じます(というよりクライマックスでは完全に傍観者…)。
 その意味ではまだまだ磨きどころが大きい作品ではあるのですが、しかし、そこが解決された時――ある意味、非常に作者らしい、作者の代表作と呼べる作品が生まれるのではないかと、同時に感じた次第です。

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忘れ簪: つばめや仙次 ふしぎ瓦版 (光文社時代小説文庫)


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