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2012.04.26

「軍師の挑戦 上田秀人初期作品集」 時代ミステリという源流

 上田秀人の初期短編集「軍師の挑戦」が発売されました。作者の長編デビュー作「竜門の衛」の前に執筆された8本の短編が収録されていますが、いずれも時代ミステリに分類されるなかなかにユニークな作品揃いであります。

 本書に収録されている作品は、いずれも歴史上の大事件の背後の謎を、これもほとんどの場合歴史上の有名人である探偵役のキャラクターが解き明かすというスタイル。
 以下にその8編の題材と探偵役を挙げましょう。(カッコ内が探偵役)

「乾坤一擲の裏」:何故今川義元は桶狭間に留まったのか(黒田勘兵衛)
「功臣の末路」:何故堀田正俊は江戸城内で稲葉正休に殺害されたのか(新井白石)
「座頭の一念」:佐野善左衛門が田沼意知に斬りつけた背後にいたのは誰か(金貸し座頭重藤(架空の人物))
「逃げた浪士」:何故討ち入り後に逃げた寺坂吉右衛門が手厚く葬られているのか(竹田出雲)
「茶人の軍略」:何故千利休は秀吉から切腹を命じられたのか(松平不昧)
「たみの手燭」:坂本龍馬暗殺の真犯人と、その背後にいたのは誰か(勝海舟)
「忠臣の慟哭」:桜田門外の変を仕組んだのは誰か(小栗忠順)
「裏切りの真」:何故最後まで抵抗した榎本武揚が新政府で重用されたのか(福沢諭吉)

 時代ミステリには、大きく分けて歴史上の事件の謎を解き明かすものと、歴史上の有名人が探偵役を務めるものがありますが、本書に収録された作品のほとんどは、この通り、その両方を満たすもの。
 作者はデビュー前に山村正夫の小説講座に入門していたとのことですが、なるほど、歴史上の謎の裏側を描き出す作者の作品の伝奇風味は、ミステリの素地から来ていたのか、と納得いたしました。


 もっとも、本書に収録された作品は――作者自身が認めているように――習作レベルの作品が多く、その意味では、今の目で見ると物足りない部分はあり、一瞬のファンアイテム的な面があることは否めません(特に前半に収められた作品は、小説としての構成がほとんど皆同じというのも苦しい)。

 しかし、これらの作品には、後の作者の作品に通じる(実際、本能寺の変や堀田正俊殺しは、後の作者の作品の題材となっています)鋭い視点があるのも紛れもない事実です。

 特に、第20回小説クラブ新人賞佳作に入選し、作者のデビュー作となった「逃げた浪士」(旧題「身代わり吉右衛門」)は、寺坂吉右衛門が討ち入り後姿を消した謎という、忠臣蔵ものではかなりメジャーな題材に、空前絶後の解答を与えた作品。
 探偵役に「仮名手本忠臣蔵」の作者である竹田出雲を据え、その謎解きの結末が、同作の上演中止に繋がるという構成も心憎く、上田ファンならずとも、この作品はぜひ読んでいただきたいと思います。


 いずれにせよ、上で述べたように、作者の作品の魅力の一つである伝奇性に、歴史の謎を解き明かすというミステリ志向があったことは一つの発見であり、上田ファン、時代ミステリファンとしては、十二分に楽しませていただきました。
(ただし、各作品の初出を明記していないのは残念。桃園書房の文庫アンソロジーに収録されたものが多いのではないかと思いますが…)

 そしてもう一つ――本書に収録されたラスト三作は、いずれも幕末・明治時代を舞台とした作品なのですが、三作共通して活躍する勝海舟の人物像なども含めて、実に面白い。
 私の知る限りではこの時代を舞台とした作者の長編はなかったと思いますが、是非いつか書いていただきたいと、心から感じたところです。
 剣士たちの死闘が繰り広げられ、そして現代にまで続く権力構造の萌芽が生まれたこの時代は、上田作品に実にふさわしいと感じるのですが、いかがでしょうか。

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軍師の挑戦 上田秀人初期作品集 (講談社文庫)

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