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2012.04.27

「信長の茶会」 信長という重力

 死後、地獄に落ちて行動を共にしていた織田信長と明智光秀は、冥府王の命で、本能寺で焼け残った名器「つくもがみ」を求めて本能寺の変直前の地上に送り出された。変の八年前、絵師の狩野元秀は、堺の天王寺屋で、なべという奇妙な少女と出会う。時空を超えて交錯する四人の運命の行方は…

 奇妙な物語であります。
 本作は観阿弥を主人公とした「観」にはじまる三部作などを発表した永田ガラによる歴史小説であり、青春小説であり、ファンタジーであり…様々な側面が渾然一体となった作品なのですから。

 物語は、あの本能寺。明智光秀が織田信長を攻めるあの変の直前の本能寺から始まります。
 そしてそこに二人連れだって現れたのは、信長と光秀――実はこの二人、この時代の二人ではなく、(ややこしいですが)一度死んで地獄に落ちてから、数百年後の二人。最期の時の因縁はどこへやら、地獄では仲むつまじい主従となって地獄の鬼と合戦の毎日だった二人は、冥府王の命でこの世に戻ってきたのであります。

 その命とは、本能寺で灰となったはずが、その運命を逃れた名器「つくもがみ」を見つけ、確実に灰とすること。しかし二人は本能寺の変の混乱の中で離ればなれとなり、揉みくちゃになった光秀は、偶然そこを訪れていた絵師・狩野元秀に拾われるのですが…

 と、ここで大きく物語の構造に変化が生じます。ここで物語は本能寺の変から八年前の堺に飛び、若き日の元秀と、彼がそこで出会った風変わりな少女・なべの物語となるのですから。

 天才絵師・狩野永徳を兄に持ち、兄を敬愛しつつも、兄に認められぬ自分を歯がゆく思う元秀。堺の豪商・天王寺屋の食客として気ままに暮らしながらも、戦国の世に寄る辺のないなべ。
 そんな二人が堺の町で出会い、影響を与え合う事で、未来に顔を向けて生きることを知る――そんな物語がここでは展開していくこととなるのです。

 しかし物語の流れはここで留まることはありません。さらにそこから八年前に遡り、堺の有力商人たる天王寺屋(津田)宗及と今井宗久の対峙に移り…そして再び本能寺の変の直後に戻ることになります。


 なるほど、この展開・構成を見ていれば、物語の流れから置いていかれた気分にならないでもありません。果たして物語の中心はどこにあったのか…と。
 しかし、物語の中心は明確に存在します。信長という中心が。

 光秀は言うまでもないでしょう。一方、直接信長と面識のなかった元秀は、兄が依頼された信長の安土城建設に関わることができなかったことに大きな疎外感を持ち、なべは父が信長に組みしようとしたことで、一族を失うこととなります。
 成り上がり者の今井宗久は、信長の可能性を信じ、彼と結ぶことで自らの存在を高めようとし、天王寺屋宗及は、信長に嫌悪感を抱きつつもやがて惹かれてその軍門に下り…

 そう、本作は、実に信長という巨大な重力を持つ存在に己の運命を変えられ、影響を受けた者たちの物語なのであります。

 そして彼らの信長との接点として象徴的に存在するのが、茶器であり、茶室であり、茶会であります。
 本来であれば純粋に趣味あるいは芸術であった茶道が、戦国の世にあっては、戦国大名の触れたところでは、性質を変えていく…そしてそれに触れた者たちもまた。

 そう考えると、信長が命じられた「つくもがみ」を回収しようとする行為は、自らの手で自らの所業に幕を下ろそうとすることに見えてくるのですが――本作の結末は、その信長もまた、己の起こした歴史の渦の中に囚われたと解釈すべきでありましょうか。巨大な星が自らの重力で崩壊した末にブラックホールと化すように。


 もちろんこれも一つの解釈に過ぎません。本作は冒頭に述べたように奇妙な物語、様々な側面が渾然一体となった物語であります。
 その奇妙さを許せない方もいるかもしれませんが――私にとっては不思議に愛すべき物語に感じられた次第です。

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