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2012.04.17

中国ミステリ新人王座決定戦 秋梨惟喬vs丸山天寿!?

 私にとって「メフィスト」誌の2012年 VOL.1の最大の見所は「中国ミステリ新人王座決定戦」。秋梨惟喬と丸山天寿、中国を舞台にした時代ミステリ…いや伝奇ミステリ作家の短編を掲載ということで、まさに俺得企画であります。

 さて、まず秋梨惟喬の「位牌発電 黄石斎真報」は、中華民国が誕生したばかりの江南の小都市・仙陽を舞台としたユニークな作品。
 タイトルにある黄石斎真報とは、仙陽の小出版社(印刷所)・黄石斎石印書房が発行する画報のこと。本作では、書房に集う一癖も二癖もある面々が探偵役となります。

 仙陽の隣の城市に現れた、位牌に籠もった魂から電気を取り出すという触れ込みで位牌を集める怪しげな一団。
 位牌を持って行くだけで金が支払われ、偽の位牌を持っていた者には電気に撃たれたような天罰が下るという評判の裏側を探るため、書房の面々が動き出すのですが――

 本作でとにかく面白いのはこの主人公チームのキャラクターであります。
 仙陽の顔役、様々な幇会の主である社主と、その妹の阿麗。専属絵師にしてもう一つの顔を持つ老人。得体の知れぬ側面を持つベテラン記者と、振り回されっぱなしの若き記者見習い。そして社に居候する“黒蝙蝠”と呼ばれる博覧強記の黒衣の怪人――
 いかにも作者らしい武侠色と無国籍色漂う怪人たちであります。

 ただ、そのユニークなキャラクターたちの紹介にそれなりの分量が割かれているためもあってか、物語の方は比較的あっさりめに感じられるのが残念ではあります。
 トリックの方も、冷静に考えればかなり強引、というか博打色が強いもので(それはそれで作者の持ち味ではあるのですが)、そこはつっこみどころではあるでしょう。

 しかしながら、ホワイダニットの部分は、清から民国への混乱の時代故に成立する内容となっているのが面白い。クライマックスのアクションも短いながら印象的で、やはり作者でしか描けない物語でしょう。

 全体的な印象としては、海外ドラマの特殊チームもの的な味わいで、これは是非シリーズ化して続きを見せて欲しいものであります。


 そして丸山天寿「夢美女の呼び声」の方は、本ブログでもこれまで取り上げてきた作者の徐福シリーズの番外編であります。
 シリーズ第三弾の「威陽の闇」の事件で徐福一行が不在となった港町・琅邪で、警察官の希仁、儒者兼巫医の笠遠、水商売の女将・蓮といったおなじみの面々と、新キャラの巫医・嬌娜が事件に挑むのですが…

 その事件というのが(いつものことながら)また非常に奇っ怪であります。
 琅邪に大雪が降った頃、蓮が浜辺で見つけた、意識不明の素っ裸の少女。その身元を調べようとした希仁と笠遠は、しかしそれだけでなく、ある船大工の夢の中に幾度となく現れる、幽霊船の中で餓死していた美女の謎解きをする羽目となるのです。
(こんな無茶な展開になるのが、夢の中で笠遠先生が人殺しの濡れ衣を着せられたから、というのが楽しい)

 夢の中の世界での出来事を果たして論理的に解き明かし、人殺しの濡れ衣を晴らすことができるのか、いやそもそも意味があるのか? 
 この、あまりに無茶なものに見える問いかけを、本作は巫術を媒介にして鮮やかに解決してみせます。

 正直に言って、物語の中に超自然的な部分とロジカルな謎解きが共存しているのには評価が大きく分かれるかと思います。
 しかし、本作は――これまでのシリーズがそうであったように――それが許される、それが当然と人々に受け止められていた舞台を
設定しているのであり、そこは作者の筆の妙と言うべきでしょう。
 とはいえ、短編であるためか、歴史ものとしての色彩、この時代であることの必然性は、シリーズ本編に比べると薄いのが残念ですが――


 ということで、どちらの作品も作者の個性が良く出た作品で、私は非常に楽しめました。
 あえて採点するとすれば、歴史ミステリとしての視点では「位牌発電」が、謎解きの面白さでは「夢美女の呼び声」が優れていたという印象でしょうか。

 個人的には「王座決定戦」などと優劣付けを煽るのは――こういう盛り上げ方であることは百も承知の上で――あまりに好きではないのですが、(失礼ながら)まだまだジャンル的にはマイナーな中国ミステリを、こういう形で取り上げてくれるのは素直に喜ぶべきでしょう。
 さらに参加者を増やした二回、三回目が開催されることを期待したいと思います。

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メフィスト 2012 VOL.1 (講談社ノベルス)


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