「アバンチュリエ」第3巻 アルセーヌ・ルパン三つの顔
新「アルセーヌ・ルパン」伝とも言うべき森田崇の「アバンチュリエ」第3巻が発売されました。
今回は表紙を見ればわかるように「あの探偵」が登場。怪盗対名探偵のファーストコンタクトが描かれることとなりますが…
この第3巻に収録されたエピソードは、「ハートの7」、「遅かりしHerlock Sholmes」、「赤い絹のスカーフ」の3編。
このうち、やはり2つ目にどうしても目が行ってしまいますが、どうしてどうして、3編とも実に面白く、そして「ルパンらしい」エピソードであります。
まず最初の「ハートの7」は、解決編とも言うべき部分が収録されています。
小説家の「私」の屋敷で続発する怪事件。「ハートの7」にまつわる事件の数々は、やがて同じ名を持つ新造潜水艦の設計図流出事件にまで波及して…
と、ルパンと、彼の伝記作家となる「私」との出会いを描く本作は、硬軟幾重にも入り組んだ事件像も魅力的なのですが、個人的に印象に残るのは、愛国者としてのルパンが描かれ――そしてそれが、シリーズの特色の一つとも言える、第一次大戦期を舞台とした国際冒険ものに繋がっていく点であります。
ルパンシリーズは――主人公がそうであるように――様々な顔を持つ作品ですが、そのうちの一つの端緒がここに描かれていることは、やはり記憶しておくべきことでしょう。
そして2編目は、いよいよルパン最大の強敵の登場編。そう、イギリスが誇る名探偵ハーロック・ショームズ氏の登場であります。
名前からしてシャーロック・ホームズをモデルとしてることが明確であり、事実、原作が邦訳される場合は、ほとんどの場合「ホームズ」名で訳出されるこの人物を、あえて「ショームズ」とするのは、いかにも本作らしい拘りだなあと感心いたします。
しかし、それでいてここで描かれるのは、我々が心に抱く「あの名探偵」のイメージそのまま、となっているのもまた、さすがと言うべきでしょう。
本作においては、文字通りすれ違うに留まる両雄なのですが、お互いを傷つけずに(「アオッ!!!」はありますが)それぞれの強烈なキャラクター性が明確に描き出され、むしろ実にうまい形で共演させたものだと感心いたします。
もちろんこれは原作の時点でそうなのですが、しかしこれには、上で述べたとおり、あまりにイメージそのままの――それでいて「敵役」らしい味付けも加わっていて――ビジュアルも大きいと、断言させていただきます。
さて本作は、名探偵登場編であると同時に、第1話に登場したヒロイン・ネリー嬢の再登場編でもあるのですが(二人の「再会」シーンは、ルパンの人間臭さに一つの焦点を当てて描いてきた本作ならではの名/迷シーン!)、しかしそれだけにとどまりません。
本作の中核となる謎は、アンリ4世とルイ16世という、二人の有名な王にまつわる暗号解読。
ルパンシリーズは、「ハートの7」に見られるように「現代」の国際情勢を描くエピソードも多いのですが、このように、「過去」にまつわる、一種伝奇的歴史冒険ミステリ譚も少なくないのです。
イベント性の高い内容でありつつも、そこに伝奇ミステリの味わいも加わった、実に盛りだくさんのエピソードなのです。
そしてラストの「赤い絹のスカーフ」は、ルパンファンの間でも非常に人気の高いミステリの名作。
ルパンが宿敵ガニマール警部を呼びつけ、ある証拠品から(その時点では起きているかもわからない)殺人事件の概要を推理、その解決を警部にゆだねる、というトリッキーな冒頭部からして引き込まれますが、ラストに待ち受ける大どんでん返しには完全に脱帽。
上で述べてきたように、冒険小説的要素も強いルパンシリーズですが、純粋にミステリとしても優れたものがあることを、改めて認識させられた次第です。
しかしそれにとどまらず、このエピソードでは、怪盗という稼業を己の運命だと嘯くルパンの意思と、それに抗しようとするガニマールの覚悟が対比して描かれるのもまた見事。 原作を忠実に描きつつも、その上でさらにキャラクターを掘り下げ、さらに魅力あるものとして提示してみせる本作の真骨頂と言えるかもしれません。
いつものことながら「ルパンって面白い!」と思わされる本作。新刊を読み終えてすぐに…いや、読んでいる最中から、、次の巻が楽しみでならないのです。
「アバンチュリエ」第3巻(森田崇 講談社イブニングKC) Amazon

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コメント
ちなみにホームズファン(シャーロキアン)はルパンにしてやられるホームズが相当腹立たしかったそうで、のんびりした時代の当時でも相当な非難が殺到したそうで、現在のようにネット社会ならルブランのHPは炎上しているでしょう(笑)。まあそのルパンを某作品で明智小五郎のやられ役にした日本人は何も言えませんが(笑)。
でも当時の英仏作品見ると、英仏の欧州支配体制に挑戦してきたドイツ帝国はとことん悪役で気の毒のように思えます。
投稿: ジャラル | 2012.05.02 20:03
ジャラル様:
私もホームズファンのはしくれですが、少なくとも「アバンチュリエ」レベルだったらOKですね…まあ、無許可でホームズ名義だったらさすがに怒られるだろうなあとは思います(笑)
しかしこの時代のドイツは、便利といえば便利ですよね…
投稿: 三田主水 | 2012.05.26 21:04