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2012.05.30

「ふたり、幸村」(その一) 馴染み深き、そして新しき幸村伝

 諏訪大社の雑人にして真田家の早飛脚を務める少年・雪王丸は、天正十二年の冬、真田昌幸と対面して彼の三男・幸村として迎えられる。年の近い兄である信繁と行動を共にするうち、やがて彼らは二人とも「幸村」と呼ばれるようになる。戦国時代の終わりに、二人の幸村が見たものとは…

 今では、いや今でも戦国時代最大のヒーローの一人というべき真田幸村は、しかし、その実かなり謎に包まれた存在であります。
 その活躍の内容において、虚構と史実の境目が極めて曖昧となっていることもさることながら、そもそも「幸村」という名前が信頼のおける史料に登場せず、全て「信繁」と呼ばれているのであり――言い換えれば、真田幸村という人物自体が本当に存在したのか、とすら疑うことができるのですから。

 本作は、そんな幸村の存在の謎に、意外な解を用意した作品であります。そう、そのタイトルに表れているように、幸村は二人――信繁と幸村と――いた、という解を。

 本作はその幸村の生涯を、幸村(雪王丸)が真田昌幸に見いだされる少年期、第一次上田合戦を背景に幸村と信繁の出会いを描く青年期、第二次上田合戦を背景に幸村の経験したある別れを描く壮年期、そして大坂夏の陣を舞台に幸村と信繁の最後の戦いを描く晩年期と、四章に分けて描いた作品であります。
 そこに登場する人物も多士済々。昌幸・信幸・大助と真田家の人々はもちろん、望月六郎・根津甚八・海野六郎・才蔵といった講談などでは真田十勇士として知られる者たち、さらには山本勘助(!)まで――
 真田ものファン、戦国ファンであればよく知った顔ぶれが、しかし本作においては、全く異なる顔を以て活躍することになるのです。

 もちろん、その筆頭が二人の幸村であることは間違いありません。
 諏訪大社の雑人であり、真田家の早飛脚であったものが、突然昌幸の三男として暮らすことになった雪王丸=幸村。彼の出自の秘密は伝奇性十分でありますが、それ以上に、山田正紀ファンとしては、彼を表すある言葉にニヤリとせざるを得ません。
 そして父と兄に似ず茫洋とした性格ゆえか、何故か幸村と同一視され、やがて二人で一人の幸村としてその活躍が語られることとなる信繁――
 彼らを物語の中心に据えることで、本作はこれまでと全く異なる、それでいてどこか馴染み深さも感じさせる、新しい真田幸村伝を構成しているのであります。

 しかしながら、本作の真の魅力は、そうしたユニークな幸村伝、伝奇活劇的から、さらに踏み込んだ点にあるように感じられます。

 それについては、長くなるため次回に述べたいと思います。

「ふたり、幸村」(山田正紀 徳間書店) Amazon
ふたり、幸村

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