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2012.05.12

「モンテ・クリスト」 新たなる復讐譚の幕開け

 しばらく新作の発表がなかった熊谷カズヒロが、この春立て続けに二編の新作を発表しました。一つは「コミック@バンチ」5月号に掲載された70年代を舞台にしたアクション「ゲルニカ」。そしてもう一つが、「グランドジャンプPREMIUM」Vol.5に掲載された「モンテ・クリスト」であります。

 舞台は1840年代のフランス。かつて周囲に陥れられ、14年に渡り重政治犯を収監するシャトー・ディフの監獄に閉じ込められていた男、モンテ・クリストを主人公とした復讐譚――そう、言うまでもなくアレクサンドル・デュマの名作「巌窟王」あるいは「モンテ・クリスト伯」の漫画化であります。

 しかしながら、本作は原作の単純な漫画化ではありません(言うまでもなく、原作は大長編、本作は短編読み切りということはありますが)。
 本作の舞台となるのは、産業革命によりスチームパンク的繁栄を遂げたフランスであり、そしてそこで見せるモンテ・クリストのアクションは、メリハリと陰影の効いた熊谷流とも言うべき独特のスタイル。
 そして何よりも驚かされるのは、たった一コマ、比喩でなく一コマで、この物語の中で、熊谷流超人アクションを成立させてしまう伝奇的味付けであります。

 一言で評すれば、原作の設定を踏まえつつも見事に換骨奪胎した、作者ならではの、作者でなければ描けないような作品。久々の熊谷作品を堪能いたしました。


 そして個人的にいささか興味深く感じたのは、本作が、復讐というテーマを扱いながらも、どこか明るい空気が漂う点であります。
 作者の作品には、しばしば強烈な情念の存在が描かれます。怒り、悲しみ、憎しみ…登場人物の、そして時には物語の構造自体を揺るがし、変貌させる強烈な想い。ある意味諸刃の剣とも言える情念の存在は作者の作品に濃厚に漂います。

 当然、復讐を描いた本作においてもそれは描かれるものと思っておりましたが――意外と言うべきか、上に述べたとおり、作中の多くの場面には明るめの空気が漂い、情念の存在は控えめに描かれていたように感じます。
 それはもちろん、モンテ・クリスト、真の名をエドモン・ダンテスが――熊谷作品にはまま見られるように――飄々とした言動の中に、その情念を韜晦しているということはあるでしょう。
 あるいは、単純に、短編という構成上、主人公が怒りを発露するシーンが一点に凝縮されていたために私が勘違いしたということもあるかもしれません。

 しかし、それが私の勘違いでなければ、本作で感じられるな空気感はどこから来ているのか――あるいはこの空気感は今だけのものなのか。それを確かめてみたく感じるのです。
 そのためにも、本作の続編をぜひ見てみたいと、伝奇ものファンとして、そして作者のファンとして、強く感じる次第です。

「モンテ・クリスト」(熊谷カズヒロ 「グランドジャンプPREMIUM」Vol.5掲載)

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