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2012.05.17

「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎!

 元勘定吟味役・水城聡四郎は、愛妻の養父でもある八代将軍吉宗から、御広敷用人に任じられる。将軍としての幕政改革の手始めに大奥に手を着けた吉宗は、自らの手足として聡四郎を使おうというのだ。吉宗の密命を帯びて京に向かう聡四郎を付け狙う伊賀者に対し、一放流の豪剣が唸る!

 水城聡四郎が帰ってきました。上田秀人の新シリーズ「御広敷用人 大奥記録」は、「勘定吟味役異聞」シリーズで活躍した聡四郎が再び幕政の闇に挑むこととなります。

 かつて新井白石により勘定吟味役に抜擢され、経済の面から、裏で幕府を動かさんとする者たちと対決することとなった青年・水城聡四郎。
 彼の戦いは、やがて次の将軍位を巡る暗闘へと場を移し、その中で上司であるはずの白石とも対決することとなった聡四郎は、成り行きとはいえ紀州吉宗に近づくこととなります。
 吉宗が将軍位を継ぎ、かねてより想いを寄せ合っていた人足問屋の娘・紅が吉宗の養子となってめでたく祝言を上げたところで、先のシリーズは終了したのですが…

 しかし、運命は彼にいつまでも平穏な時を与えません。一種の名誉職である寄合席についていた聡四郎が、吉宗により新たに将軍付きの御広敷用人に任じられるところから、新たな物語が始まることになります。

 御広敷用人とは、大奥の玄関口である広敷を管轄する役職。江戸城の中に存在する女の城とも言うべき大奥に対し、最も近い位置に立ってその事務折衝を行う立場であります。

 様々な幕政改革を行った吉宗ですが、その対象の一つが大奥。吉宗が将軍位に就いてすぐに大奥に美女のリストアップを命じ、大奥側が気合いを入れて選びだしたところ、それだけ美しければ大奥外でも嫁入り先はあるだろうとリストラしてしまった…という有名なエピソードがありますが、本作の冒頭で語られるのがまさにこれであります。

 江戸城の中の独立権力と言える大奥に対する改革の先制パンチ…という印象でなかなか痛快ではありますが、もちろん食らわされた側にとってみればたまったものではありません。その衝撃は、それまでは大奥で激しい対立を繰り広げていた月光院と天英院が手を組むほどであり、そしてそれは、それだけ大奥が恐るべき敵となることを意味します。

 実は先のシリーズの終盤でも大奥で死闘を演じた聡四郎にとって、大奥は無縁ではない…と言えなくはありませんが、しかし御広敷用人は、勘定吟味役以上に異世界とも言える役職。それが就任早々、立場を超えて結束した大奥サイドと対峙することになるのですから、虎の尾を踏むのが常の上田主人公の中でも、屈指の不幸度とでも申せましょうか…

 彼の後ろ盾は最高権力者たる吉宗ではあります。しかしそれは、彼が他の誰も頼ることができないことを…いやそれどころか、他の全員が敵となることを意味します。
(さらに言えば、上田作品では上司が一番信用できなかったりもするわけですが…)

 本作でも早速(?)御広敷伊賀者の誘いの手を跳ねつけることなった聡四郎は、逆に大奥側についた彼らを向こうに回して死闘を繰り広げることとなります。
 もちろん、彼の得意とする一放流の豪剣の冴えは相変わらず、こればかりは彼の敵に同情してしまいますが…

 しかしそれでもなお、彼の敵は大きすぎると言わざるを得ません。大奥は将軍の正室・側室を擁する場であることはもちろんですが、それと同時に将軍の子の扶育の場であり…そしてそれは、次代の将軍を押さえているということでもあるのですから。

 果たしてその巨大すぎる敵を向こうに回し、聡四郎はどのような戦いを見せるのか。
 そしてまた、そこにどのような秘密・秘事が眠っているのか…これでこれから先を期待するな、というのが無理というものでしょう。
 聡四郎には本当に申し訳ありませんが、彼のこれからの戦いが楽しみでなりません。

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女の陥穽: 御広敷用人 大奥記録(一) (光文社時代小説文庫)


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