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2012.05.24

「もののけ本所深川事件帖 オサキと江戸の歌姫」 そして深川に誰もいなくなった

 深川で大人気の十人組の歌組「本所深川いろは娘」。その中で一番人気の娘・小桃の死体が大川に上がった。その代役として指名されたのは、周吉が奉公する献残屋の娘・お琴だった。お琴に付き添っていろは娘と共同生活を送る周吉だが、メンバーが「十人の仔狐様」の歌詞通りに次々と死んでいく…

 今年に入っても毎月ペースの高橋由太、5月の新刊は久々の「もののけ本所深川事件帖」シリーズ、「オサキと江戸の歌姫」であります。
 これまで大食い大会、婚活と時事ネタ(?)を取り込んできたこのシリーズですが、今回は何とAKB!? しかも、彼女たちがクローズド・サークルの中で童歌の通りに次々と殺されていくという、「死神の子守唄」…というよりその源流の「そして誰もいなくなった」ばりの連続見立て殺人が描かれることになります。

 雨の続く深川で、かつて雨を止めたという伝説の歌「十人の仔狐様」を歌う歌組(アイドルグループ)の「本所深川いろは娘」。その中で一番人気で真ん中に立つ小桃が死んだことから、物語は始まります。
 歌組は十人である必要があると、強欲な興行主が目を付けたのは、主人公・周吉が務める献残屋の一人娘・お琴。泣く泣く新メンバーとなったお琴の身の回りの世話のために、オサキともども合宿所である神社で暮らすこととなった周吉ですが――

 そこで彼が目の当たりにするのは、「十人の仔狐様」の歌詞の通り、一人、また一人と、奇怪な死を遂げた娘たちの死体と、そこに残された謎めいたメッセージ。
 それでも興業を止めようとしない興行主と、歌組以外には行く場所もない娘たち。大川が決壊しかねないほどの雨が降る中も死体は増え続け、ついにお琴とあと一人を残すまでに…


 と、終盤まで十人の女の子たちが一人一人死んでいくという展開。しかもお琴以外の女の子たちは、いろは娘が解散となったら、身を売るしかないという厭な境遇で、非常に重い気分になっていきます。
 元々高橋作品は(毎回言っているような気がして恐縮ですが)、キャラクターの明るさ、楽しさに比して、ストーリー自体はシビアで重い話が多いのですが、本作はその中でも屈指と言えるかもしれません。

 しかし、その果てに結末で明かされる真実を何と評すべきでしょうか。
 犯人の心にあったのは、他者を想う心であり、そして自分を含めた皆が(正確には一名を除いて)幸せになれる道であった――乱暴なアイディアではあります。あまりにも理不尽で身勝手な動機ではあります。
 それでも、この状況に、この境遇にあった者であれば、こう考えてももしかしてはおかしくないのではないか…私はそう感じました。
 周平がほとんど傍観者に終わっているというのは残念でありますが(彼の境遇からすれば、もしかすれば犯人の理解者となれたかもしれないことを考えれば特に)、しかしそれでもなお、これまでのシリーズで最も読み応えある作品でありましたし、作者の作品の中でも一二を争う出来の作品ではないかと、心から思います。

 ミステリの古典的名作を本歌取りしつつ、新たな内容を提示してみる…このミス大賞出身は伊達ではない…そんなことを再確認させられる作品であります。

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