« 「傾城水滸伝」(その一) 男女逆転の生む迫力 | トップページ | 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! »

2012.05.16

「傾城水滸伝」(その二) 日本水滸伝における反権力像

 昨日の続き、曲亭馬琴の「傾城水滸伝」であります。
 水滸伝ファンでもちょっと驚くくらい原典の再現に拘った馬琴ですが、しかし、唯一原典と明確に異なる部分があるのです…というところから。

 それは、勇婦侠女たちの多くが、鎌倉幕府、あるいは北条氏に滅ぼされた武家の血を引く者である、ということです。
 彼女たちは落魄した武家(の郎党)の息女であり――そしていつかはこの時代の権力に対し復仇を、と考えている存在なのであります。
(原典の張青・孫二娘夫婦のような追い剥ぎ酒屋や、原典で最も山賊らしかった清風山組までこうした設定がなされているのには驚きます)

 実は本作においては、108星にカウントされない(原典の晁蓋ともまた別)の存在として、鎌倉幕府二代将軍・源頼家の妾腹の娘・三世姫が設定されています。
 原典で晁蓋たちが財宝十万両を強奪するくだりに相当するのが、九州で捕らえられ鎌倉に護送される彼女の奪還というエピソードなのですが、この三世姫を(象徴的に)奉じることにより、本作の勇婦たちの活躍は、北条家に簒奪された幕府に対して決起するという色彩を帯びることになるのです。

 馬琴が水滸伝の大ファンであることはよく知られていますが、108人の無頼漢が人間の徳目を象徴する8人に変じたが如く、本作においても、豪傑たちの反権力性に、一定の正当性が与えられたというのは、何とも興味深い。
 この辺りは、無頼漢の大暴れをそのまま描くのに、生真面目な馬琴がためらいを感じた――と私は想像するのですが――という以上に、日本における水滸伝の受容の形、さらに言ってしまえば日本の大衆エンターテイメントにおける反権力の形すら読み取ることができる…というのはさすがに大袈裟でしょうか。
(そして言うまでもなくこの点は、建部綾足の「本朝水滸伝」にも重なる部分があります)


 と、興奮してしまいましたが、男女逆転というキャッチーな(?)部分のみならず、日本において水滸伝をいかに描くか、という点まで考えさせられた本作。
 残念ながら、読むのがかなり難しい作品ではあります(私は本邦書籍が刊行した滝沢馬琴集の中に収録されたものを図書館で読みましたが、こちらはTRCのデータベースにも載っていない書籍です)
 しかし水滸伝ファンであれば、チャレンジしてみる価値はある…そんな作品であることは間違いありません。

「傾城水滸伝」(滝沢馬琴 本邦書籍「滝沢馬琴集」第13,14巻所収)

|

« 「傾城水滸伝」(その一) 男女逆転の生む迫力 | トップページ | 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! »

コメント

はじめまして。
ひょんなことから傾城水滸伝にはまり、こつこつとネットの中に掘り出している者です。
まだまだ作業途中ですが、ご興味ある方がいらっしゃればと。
現在、9編までをアップしてますが、原本の変体仮名から読み起こしていますので虫食いや漢字への未変換があり、おはずかしい状態です。
まずは、ご紹介まで。

投稿: 滝本 | 2012.12.13 10:05

滝本様:
お返事遅くなりまして申し訳ありません。素晴らしい試みに感心いたしました。
しかも、続編の「女水滸伝」まで!!
私はこの記事の通り、「傾城水滸伝」本編までしか読んでいないので、「女水滸伝」完結を心よりお待ちしております。
これからも頑張ってください!

投稿: 三田主水 | 2012.12.24 21:56

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/54703028

この記事へのトラックバック一覧です: 「傾城水滸伝」(その二) 日本水滸伝における反権力像:

« 「傾城水滸伝」(その一) 男女逆転の生む迫力 | トップページ | 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! »