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2012.05.11

「なりひら盗賊」 時代伝奇ミステリの一つの可能性を

 黒主の重兵衛以下六人の大盗・六歌仙組が闇に消えてから数年。一味の小町のお六を見つけた目明かしの伝吉は、謎の白頭巾に邪魔をされる。さらに伝吉が川の中で見つけた長持ちの中から現れる女の死体。それは一味から足を洗った業平の清次の女房だった。重兵衛が残した六枚の色紙に秘められた謎とは…

 久しぶりに高木彬光の時代伝奇小説紹介シリーズ。今回は「なりひら盗賊」ですが…これが玉石混交の高木時代小説の中では、かなり面白い作品なのであります。

 黒主の重兵衛・小町のお六・願人喜撰・文屋の長吉・遍照権次・業平の清次――六歌仙から名を取った六人組の盗賊・六歌仙組。彼らは、尾州家から二万両もの大金を奪ったものの、重兵衛はその後捕り手に囲まれて炎の中に消え、残りの一味の消息とともに二万両の行方も消えたまま数年――
 偶然目撃した小町のお六の姿を追う目明しの伝吉の前に、謎の白頭巾の男が現れる場面から物語は始まります。

 白頭巾の豪剣の前にあわや…というところに手裏剣芸人のお蝶の助太刀で、辛うじて川に飛び込み、命は助かった伝吉。しかし彼がその川の中で見つけたのは、女の死体が入った長持…
 その女がお蝶の妹分であり、そして業平の清次が盗賊から足を洗うきっかけとなった恋女房であったことから、さらに事件は複雑怪奇な様相を呈することとなります。

 清次の妻を殺したのは何者か。事件を追う者たちの前に出没する白頭巾の狙いと正体は。次々と六歌仙組が殺されていく理由とは。彼らがそれぞれ持つ六歌仙の色紙の秘密とは。
 お蝶の用心棒の浪人・山名三十郎、吉原の花魁・常磐太夫、さらに悪旗本、女乞食、謎の怪屋敷の主、さらに人間とは思えぬ泥首男――様々な登場人物の思惑が絡んだ末に物語が行き着く先は…

 と、このように善魔入り乱れての活劇というのは、時代伝奇小説の一つのパターンではありましょう。その意味では新味はないのですが、しかし本作がユニークなのは、物語の中心に、次々と六歌仙組の生き残りが殺されていくことに対するフーダニット・ホワイダニット・的な謎解きを配置したことでしょう。
 誰が、何のために彼らを殺していくのか? その内容如何によって物語の向かうところが、事件の様相が全く変わってくる――というのはいささか大袈裟な表現ではありますが、その辺りのゆらぎに、時代伝奇小説にミステリ味を導入することの一つの意義があるようにすら感じられるのです。

 さらに本作では、中心となる登場人物(いわゆる主人公的存在)が複数、それも同一サイドではなく、ある意味敵対する側それぞれにいることも大きい。
 半ば相反する視点から事件を俯瞰することにより、物語の全体像が見えてくる、あるいは余計に見えなくなってくる…複数の勢力のぶつかり合いは時代伝奇小説では珍しくありませんが、それがミステリ要素と組み合わさることにより、より物語を良い意味で複雑化することに成功しているのであります。

 …と言いつつも、一連の謎の中心となる白頭巾の正体がバレバレの時点で本作は色々残念(というより上で述べたものが根底か崩れ去りかねない)作品ではあります。
 しかし、ややもすればパターンに陥り気味な高木時代小説においては、かなりよくできた――そして、時代伝奇小説、時代伝奇ミステリというものの一つの可能性を(おそらくは意識せずに)垣間見せてくれた作品として、大いに珍重すべき作品ではないか…私は、そう感じてしまうのであります。

「なりひら盗賊」(高木彬光 春陽文庫) Amazon

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