« 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! | トップページ | 「UN-GO 因果論」(漫画版) 二つの改変、三つ目の因果論 »

2012.05.18

「孔雀茶屋 ひやめし冬馬四季綴」 新旧冷飯の共演の意味

 海棠藩の冷飯食い・一色冬馬は、中老の嫡男・鳥羽新之介を向こうに回して家老の妹・波乃の心を射止めるために奮闘中。彼らと縁のあった風見藩邸から白孔雀の血を引く孔雀が盗まれたことを知った冬馬と新之介は、波乃に良いところを見せるために孔雀探しに奔走するが、事件は意外な様相を呈して…

 米村圭伍の作品を久々に紹介いたしましょう。最新シリーズである「ひやめし冬馬四季綴」の第3巻、「孔雀茶屋」であります。
 タイトルのひやめし、冷飯とは、冷や飯食いの略で、武家の次男坊、三男坊ーー要するに、家を継ぐことができない部屋住みのこと。ファンであればよくご存じかと思いますが、作者のデビュー作「風流冷飯伝」は、この冷飯たちが活躍する作品でありました。

 本作の主人公・冬馬もその冷飯の一人なのですが…しかし彼の場合はなかなかに重い身の上。父が役目の上で冤罪を着せられて下士に落とされ、一色家は藩内でも白眼視されていたのです。
 シリーズ第一作でその冤罪は冬馬の手で晴らされたものの、諸般の事情で彼の功績は明らかにできず、彼の身も冷飯のまま。その最中に出会った家老の妹・波乃と想い想われの身になったものの、冷飯ではとても身分が釣り合わず、しかもそうこうしているうちに中老の嫡男・新之介という強力なライバルまでも登場してしまうのでした。

 さて、そんな基本設定を受けての本作では、冬馬と新之介が、盗まれた孔雀探しに奔走する姿が描かれます。
 海棠藩の姫君が嫁ぐ際に仲人を務めた風見藩で飼われていた孔雀ーー白孔雀の血を引くというその孔雀が、将軍家斉が見に来るという直前に盗まれてしまったからそれはもう大変。大変ではありますが、他家の話と放ってもおけないのが武家の付き合いであり、そして何よりも波乃に良いところを見せる格好のチャンス…というわけで、二人はわずかな手がかりを頼りに孔雀を探すことになるのであります。

 米村作品といえば、艶笑味を含んだコミカルな設定と、伝奇性・活劇性の強い物語展開という印象がありますが、本シリーズは、その中でも伝奇性はほとんどなしの、人情もの的側面が強い内容。
 しかしそこである意味原点とも言える冷飯・冬馬を主人公に据えることにより、冷静に考えればかなり生々しいーー何しろ冬馬の目指すものは出世と結婚でありますーー物語を、コミカルで、しかしどこかもの悲しさも伴う味わいに変えているのは、これはやはり作者ならではと言えるのではないかと感じます。

 そして米村ファンにとって嬉しいのは、その冷飯の元祖、「風流冷飯伝」とその続編「退屈姫君伝」で活躍した面々が、本作にゲスト出演していることであります。
 そう、すでに皆老境にさしかかってはおりますが、目高姫や飛旗改め榊原数馬、倉地ナントカさん(こちらは代替わりしていますが)など、何とも懐かしい顔ぶれであります。

 もちろんこれは、作者の作品に共通するお遊びではありますが、しかし本シリーズに限っては、それなり以上の意味を持つように感じます。
 何しろ榊原数馬は元祖冷飯、若き日は冬馬のような悶々とした想いを抱いて生きていた人物ですが、そんな彼も立派に一家を構え、藩を背負って立つ人物となっているのですから…

 正直なところ、冬馬の前途はまだまだ多難としか言いようがなく(実は冬馬は不正を働いていた波乃の父を斬っているのですが、それを彼女はまだ知らず…)、また彼自身もまだまだ未熟な人間であります。
 それでもいつかはきっと…そんな淡い期待を抱かせてくれる、そんな新旧冷飯の競演なのです。

「孔雀茶屋 ひやめし冬馬四季綴」(米村圭伍 徳間文庫) Amazon
ひやめし冬馬四季綴 孔雀茶屋 (徳間文庫)


関連記事
 「風流冷飯伝」 一筋縄ではいかぬ風流

|

« 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! | トップページ | 「UN-GO 因果論」(漫画版) 二つの改変、三つ目の因果論 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/54703079

この記事へのトラックバック一覧です: 「孔雀茶屋 ひやめし冬馬四季綴」 新旧冷飯の共演の意味:

« 「女の陥穽 御広敷用人 大奥記録」 帰ってきた水城聡四郎! | トップページ | 「UN-GO 因果論」(漫画版) 二つの改変、三つ目の因果論 »