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2012.06.03

「海賊伯」第2巻 たどり着いた夢の結末

 女王エリザベス一世から、イングランドの全海域を領土とする伯爵に任命された少年、アルバート・ドレイクの活躍を描く「海賊伯」の第2巻であります。
 地中海をのぞむエジプトの都・アレクサンドリアで、アルと仲間たちの新たな冒険が描かれることとなります。

 自分と同様に不思議な刻印の痣を持つ二人の少年――エリザベス女王に心酔する騎士・フレデリックと、抜け目ないポルトガル商人・レナードを仲間に加え、旅を続けるアル。
 彼らの船がイスパニア船団に襲撃された時に現れたのは、それを遙かに上回る規模を誇るオスマン帝国の大船団。
 そしてそれを率いる若者・エミーネは、アルに思わぬ依頼を持ちかけます…アレクサンドリアに滞在するオスマン帝国の王子・メフライルを誘拐して欲しいと。

 そのあまりに大胆な依頼を引き受けたアルですが、エミーネの先導で出会ったメフライルは、彼と同じく刻印を持つ者――さらに、そこに現れたのは、メフライルを暗殺せんと侵入してきた少女・スタシア。
 驚くべきことに彼女もまた刻印を持つ者であり、祖国奪還を目指す彼女に共鳴したフレッドは、アルと袂を分かって彼女と行動を共にすることに。

 かくて、メフライルを巡る冒険は、キリスト教圏とイスラム教圏を巡る巨大な戦いに繋がっていくことに。そして、その中でフレッドと対峙することとなったアルの決断は――


 と、この巻の背景として描かれるのは、我々にとっては今一つ馴染みの薄い、しかし、当時のヨーロッパ圏を考える上では決して避けて通れない、イスラム教圏の存在であります。
 大航海時代というと、どうしてもヨーロッパ諸国のことが浮かんでしまいますが、しかしこの当時、ヨーロッパとは地中海を挟んだアフリカ側を押さえていたのはオスマン帝国。ヨーロッパ諸国にとっては異教を奉じ、異文化を擁する者たちであります。

 そして今回、アルたちはその二つの文化圏/宗教圏の衝突の真っ直中に放り出されることとなります。
 それはあるいは、メフライルが語るように、刻印を持つ者として運命の必然なのかもしれません。彼の言葉によれば、アルたちの持つ刻印こそは、様々な文化圏を代表し、その運命を背負うものなのですから。

 その意味でいえば、成り行きとはいえメフライルと行動を共にすることになったアルと、キリスト教圏の騎士としてスタシアの剣となったフレッドの対決は、必然なのかもしれませんが――

 この辺りは、当時の時代背景を巧みに利用しつつも、ファンタジックな設定を絡め、その中でアルたちのドラマを浮かび上がらせる作者の手法を、見事と評すべきでしょう。
 史実を踏まえつつも、そこに虚構の味付けを加えることによって、新たな物語を生み出す――そんな伝奇的手法を以て、本作は胸躍る冒険活劇と、少年少女の青春群像を描き出しているのであります。
(個人的には、聖乙女という宿命――そして彼女の出身がマルタ島というのがまたうまい――を背負うスタシアの、本当の夢のくだりにグッときました)


 しかし…まことに残念なことに、本作はこの第2巻で完結となります。おそらくはそのためでしょう、アルとフレッドの対決の行方は、いささか駆け足で描かれることとなります。
 あともう少し分量があれば、二人の心のうちをより掘り下げて描き、また、「歴史というボードゲームの駒だ」というメフライルの言葉がより重いものとして感じられたのではないか…
 そして何よりも、それらを乗り越えた解決策としてのラストシーンがより感動的に立ち上がったのではないか…そう感じるのですが、それは今言っても詮ないことではありましょう。

 しかし、端折られたとはいえ、アルたちがたどり着いた結末は、やはり胸躍るものであり、その全てを見ることができなかったのは本当に残念ではありますが、ここまで彼らの冒険の物語を見ることができたのは、やはり良かったと感じるのです。

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