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2012.06.21

「妖怪泥棒 唐傘小風の幽霊事件帖」 コメディとシリアス、二つの顔

 突然、寺子屋から小風が姿を消して失意のどん底の伸吉。一方、深川では火付けと幼子誘拐事件が同時に頻発し、さらにチビ猫骸骨とカラスの八咫丸も姿を消してしまう。そんな中、恋女房を捜す男の依頼を引き受けた一同は、一連の事件の影に、妖怪・赤猫と、石川五右衛門の幽霊の存在を知るのだが…

 本所深川を舞台に、ヘタレの寺子屋師匠・伸吉と、無愛想美少女幽霊・小風を中心に、おかしな妖怪・幽霊・その他人外が入り乱れる「唐傘小風の幽霊事件帖」シリーズ第3弾であります。

 今回の物語の中心となるのは、深川で頻発する謎の火付け騒ぎと、幼子の誘拐事件。伸吉も深川の住人として、夜回りに参加するのですが――しかしどうにも身が入らない。
 それというのも、一連の事件とほぼ同時に小風がどこかに姿を消し、彼女に密かに(?)惚れていた伸吉は青息吐息の状態なのであります。

 そんな中、小風の妹分の守銭奴幽霊・しぐれが営む何でも屋に、恋女房の千代を捜しているという大工・吉三郎が依頼に訪れます。人間には見えないはずの何でも屋を、なぜ吉三郎が訪れることができるのか…という疑問は、一連の火事のおかげで儲かったという彼の懐目当てのしぐれの頭に浮かぶはずもなく、伸吉たちは千代探しに狩り出されることとなります。

 一方、前作で伸吉のところに居候することとなった閻魔大王たちの活躍(?)で火付けや誘拐の下手人も明らかとなったと思われるのですが、事件には裏が、そしてそのまた裏の裏が…

 と、幾つもの事件が入り乱れる本作ですが、その前半は、その事件の謎を前に、とにかく登場キャラたちが自己主張とボケを連続する展開が繰り広げられることとなります。
 何しろ、ただでさえ個性の固まりのような連中が揃ったところに、ほとんど唯一のツッコミ役だった小風が謎の行方不明となってしまったことでツッコミ不在(伸吉は立場が弱すぎるので…)。ひたすらボケだけが繰り返されるという展開は、一種の地獄絵図(閻魔もいるだけに)とすら言えるかもしれません。

 君たち、もう少し冷静になって下さい、と言いたくなるような――真面目な方は怒り出すかもしれない――展開ですが、しかしそれが実に楽しい。
 特に本シリーズの二大萌えキャラ(と私が勝手に呼んでいるところの)猫骸骨と上総介のダメダメっぷりは、清々しいほどであります。


 しかしその一方で、複雑に絡み合った事件の真相が見えてくる中で、物語は別の顔を見せ始めます。

 孤独の中に千代と寄り添ってきた吉三郎、人(それがまた意外な人物!)に火を付けられて死んだ猫が変じた妖怪・赤猫、そして火事場に出没する大盗・石川五右衛門の幽霊…
 彼らを通じて描かれるのは、真っ当な人間(生き物)としての生というボーダーラインを越えてしまった、越えざるを得なかった者の深い哀しみなのであります。

 これまで何度もこのブログで触れてきましたが、作者の作品の特徴は、個性的な妖怪・幽霊たちが繰り広げるコミカルな展開だけではありません。
 それと並行して、望まぬまま人間でいられなくなった者たち、人間以外の存在(妖怪)となってしまった者たちの悲劇もまた、高橋作品では描かれるのです。

 そして本作もまた、そのスタイルを踏まえた作品、前半の怒濤のコメディ展開と、後半のシビアなシリアス展開と…その両面が、一つの作品の中で成立しているのであります。


 正直なところ、その両者の振れ幅の大きさがうまくうまっているかは微妙ではありますし、ラストの展開は弱いという印象はあります。

 しかし、そのラストで垣間見せられた伸吉の力は、本作の向かうところを示しているようにも感じられます。
 伸吉に背負わされたもの、その正体が明らかにされた時、本シリーズの向かうところもはっきりと描かれるのではないか…そんな予感を抱いた次第です。

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