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2012.06.27

「肉屏風の密室」(その二) 巡按御史、宿敵に挑む

 巡按御史・趙希舜と仲間たちの活躍を描く中国時代ミステリ「肉屏風の密室」の全話紹介の後編であります。
 今回は、残る三話を紹介いたします。


「肉屏風の密室」

 州知事の勤怠の監察に向かった希舜。しかし知事は、侍女たちが作った肉屏風の中で腹に短刀を突き立てられて殺されていた。

 表題作である本作は、趣向のユニークさに加えて、希舜の物語としても重要な意味を持つ作品であります。

 肉屏風とは、薄物のみをまとった9人の侍女を円形に並べ、互いの腕を鎖で繋いだ、実に破廉恥な代物。州知事は、この肉屏風の内側で寝ていたところを、腹に短刀を突き立てられて死んだ姿で発見されるのですが…
 侍女たちはその間いずれも眠りこけていて犯行の様子を知らないと証言。さらにそこにあるはずがない凶器は、独りでに現れて悪を断つという伝説を持つ「正道の剣」。破廉恥な行いを恥じず、職務においてもとかくの噂があった知事を正道の剣が討ったのだと、その妻は主張するのですが…

 希舜が実はかつて妻子と死別したらしいことは、「十八面の骰子」の中で触れられますが、本作ではその真相と、彼が巡按御史となった理由が語られることとなります。
 そして、それがこの奇怪な事件に彼が挑む理由と重なっていくという構成が面白い。
 実は事件の真相そのものはさまでひねったものではないのですが、その結末が、この世に天道なるものがあるものか、と嘆く希舜に皮肉な、しかし一つの希望を見せる結末が実に見事であります。


「猩々緋の母斑」

 任期途中で次々と知事が職を辞する県に、新任知事として赴いた伯淵。希舜は、紅藍教なる教団の教祖の娘と仲良くなるのだが…

 希舜が「女難の相」と占われる場面から始まる本作は、まさにその通り、様々な女性に希舜が翻弄される一編。
 赴任した知事が、四人続けて任期途中で様々な事件に巻き込まれて去った順興県。異常事態ではあるものの、しかし個々の件に関連性は見えないため、今回は巡按御史ではなく、新任知事として(伯淵が)赴任して、背後を探ることとなります。

 様々な要素が入り組んだ本作は、途中で発生する事件のトリック暴きというハウダニットもありますが、それ以上にホワイダニットの方が印象に残る作品。特に真犯人のキャラ造形は、ユニークな登場人物揃いの本シリーズでも出色のものでしょう(個人的には敵の企みには運の要素も高かったような印象もありますが…。
 結末の趣向は本シリーズでは異色のものですが、悪意に対する良き想いの勝利として受け止めるべきでしょうか。


「楽遊原の剛風」

 巡按御史としての希舜の師である杜高挙。行方不明となった彼を追い、古都・長安を訪れた希舜は唐狂いの豪商と出会う。

 最後の作品は、希舜とその宿敵の(一応の)決着編であります。
 巡按御史として希舜の先輩であり、師でもある隠居官人・杜高挙が、何かの不正を察知して赴いたという長安で消息を絶ったことを知り、長安を訪れた希舜。
 既に唐の都であった頃の面影をなくした長安ですが、そこで希舜がは、土地の豪商が楽遊原に巨大な塔を建築していることと、それを黙認している知事が、孤児を養子にしたことを知ります。その背後にあるのは…

 この作品では先に述べたとおり、これまでの作品の多くで、事件の背後に暗躍していた宿敵と、希舜が対決することとなります。ミステリのシリーズものであまり宿敵が前面に出てくると、かえってスケール感が落ちることがありますが、正直なところ、本作ではその轍を踏んだ印象があります。
 それでも本作が十分に面白いのは、事件の背後に、ある伝奇的趣向が秘められていることであります。なるほど、一見無謀に思えますが、この時代、そしてこの国の歴史を考えれば、決して無理ではない(ようにも思われる)アイディアに脱帽であります。
 ラストの希舜の一大アクションも、やや唐突な印象はありますが、しかし掉尾をを飾るにはふさわしい趣向でありましょう。


 以上五編、ミステリだけに核心を明かさぬように紹介するのは骨でしたが、その魅力の一端を感じていただければ幸いです。

 宿敵との決着もあくまでも一応のものであり、そして何よりも宿敵抜きでも十分に成立するシリーズだけに、更なる続編にも期待したいところであります。

「肉屏風の密室」(森福都 光文社) Amazon
肉屏風の密室


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