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2012.06.06

「夜明けを知らずに 天誅組余話」 近世と近代のはざまに

 文久三年八月、南大和十津川郷を中山忠光卿を奉じた尊皇攘夷の武装集団・天誅組が訪れた。十津川郷の少年・野崎雅楽は、天誅組の協力者である兄・主計、そして安政の大獄で父・梅田雲浜を失った少女・市乃とともに、天誅組に同行することとなる。しかし雅楽たちを待っていたのは、思わぬ運命だった…

 筒井家の典医夫婦を主人公としたユニークな戦国伝奇「霧こそ闇の」でデビューを飾った仲町六絵の二作目が刊行されました。
 今度の題材は天誅組の変、そして主人公は野崎主計の弟、ヒロインは梅田雲浜の娘という、あまりにツボをついたチョイスに驚かされる作品です。

 天誅組とは、明治維新の五年前、文久三年に大和で挙兵した、尊皇攘夷派の浪士による武装集団であります。
 土佐脱藩浪士の吉村虎太郎を中心に、明治天皇の叔父に当たる公卿・中山忠光を戴いて蜂起し、大和の五条代官所を襲撃して代官を殺害。彼らは天皇による攘夷親征の先鋒を謳ったものの、すぐに梯子を外された格好となり、幕府の反撃にあって、約一ヶ月後に壊滅という結果に終わることになります。

 そして主人公の兄・野崎主計は、十津川郷の庄屋であり、かねてから思想的に共鳴していた天誅組が蜂起するや、十津川郷士たちを糾合してこれに馳せ参じた人物。
 その主計とも交流のあった梅田雲浜は、私塾等を通じて尊皇攘夷思想を広めたものの、安政の大獄の最初の逮捕者となり、獄中で亡くなった人物です。

 このように本作は、歴史上の事件、歴史上の人物を中心に据えた作品でありますが、しかし、そこから半歩だけずらした主人公の視線から、描くこととなります。
 主人公たる雅楽は、天誅組とほとんど最後まで行動を共にすることとなりますが、しかし彼は、その思想・行動に共鳴したわけではありません。
 あくまでも彼は尊敬する兄と行動を共にし、そして密かに想いを寄せる市乃を守るため、それを目的に天誅組に加わったのであります。

 それにより、本作においては、天誅組の行動をつぶさに、しかし、それをある種客観的な、いやむしろ突き放した視線で描くこととなります。
 そして個人的に大いに興味深く感じたのは、その視点を担う雅楽が、十津川郷士であることであります。

 十津川郷の住民は、古代からほぼ一貫して朝廷に仕え、勤王の志厚い民として知られています。その一方で、山に囲まれた土地という地理的条件から、彼らは外界の動きには疎い面もあったことも事実でありましょう。
 その意味では、十津川郷士は、近代一歩手前である幕末の尊皇攘夷の思想とはまた異なった、一種素朴な、近世の尊皇思想を持ち続けてきたと言うことができるかと思います。

 その意味で本作は、雅楽を通じて天誅組の姿を描き出すことにより、近世の視点から、最後の近世、そして最初の近代の姿を描き出したものではないか――私はそう感じます。

 実は本作には、夜雀を僕として操る雅楽の能力や、彼の前に姿を現す玉置山の神など、幾つかのファンタジックな要素が存在します。
 それは一見、本作の世界観から浮いて感じられるように見えるかもしれませんが、しかしそれらもまた、近世の象徴としての存在なのでありましょう。
(もちろん、レーベル的な要請もあったのではないかという気もいたしますが)

 近代的な火器を持った者と、南北朝時代の鎧をまとった者が、共に参加していたという天誅組――本作はその不思議な存在を通して時代の巨大なうねり、往々にして個人の運命をたやすく翻弄しうるそれを浮かび上がらせた、そんな作品なのではないかと感じた次第です。

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夜明けを知らずに―天誅組余話 (メディアワークス文庫 な 2-2)

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