「サプライズ時代小説」特集(その一) 実は○○○な作品たち!?
一口に(伝奇)時代小説と言っても、その中には実に多種多様な作品があります。そこであるサブジャンルに属する作品を集めて紹介を、というのは個人的に好きなアプローチなのですが、しかしそのサブジャンルに属する、と明らかにすることがネタバレになってしまう作品もあります。
そこで、今回はそうした作品をサブジャンルを明かさぬまま、「サプライズ(ありの)時代小説」という一括りで紹介したいと思います。
(サプライズがあるということ自体を知りたくない、という方は申し訳ありませんがご覧になるのをお控え下さい)
さて、まずは題材がサプライズとなる作品を二つほど取り上げましょう。
まず一作目は森真沙子の「朱」。
本作は、現代で起きた首にナイフを食い込ませた猟奇殺人の犠牲者が残した、飛鳥時代の手記という非常にユニークなスタイルを取る作品ですが、その内容は、それに輪をかけてユニークであります。
推古天皇の時代、飛鳥で頻発する猟奇殺人。被害者は首を切断され、その首を朱く塗られたという奇怪な殺人の謎を縦糸に、遣隋使船に乗っていた父を亡くした少年が、船で何が起きたのかを探る姿を横糸に展開する本作は、実は○○○もの。
飛鳥時代、推古天皇といえば聖徳太子、その聖徳太子が○○○と対決…
というのは、一歩間違えればゲテモノじみた内容となりかねませんが、そこは時代小説に留まらない広いキャリアを持つ作者だけあって、ジャンルものの約束事を踏まえつつ、サスペンスを次第に積み上げていく展開は見事の一言。
蛇足にも感じられた現代パートが、きっちりとサブジャンルに結びついて終わる結末もまた巧みなのであります。
そして二作目は、乾緑郎の「忍び秘伝」。
つい先日このブログで紹介したばかりなのに大変恐縮ですが、しかしこの作品も、実は意外なジャンルに題材を求めているため、ここで再び取り上げる次第です。
戦国時代の武田家三代の興亡を背景に、忍び巫女の少女と若き日の真田昌幸が、ひとたび解き放たれれば戦の行方を左右し、いや操る者に天下を取らせることも可能という兇神の謎を追う本作。
忍び巫女という特異な存在を中心に据えた物語展開や、敵役となる怪忍者・加藤段蔵や山本勘助の存在感も面白いのですが、実は本作で描かれる世界観は、いまやメディアを超えて人気を博する○○○○○ものに連なるものなのであります。
しかし本作の巧みな点は、その世界観をそのまま時代ものの中に投入するのではなく、あくまでもほのめかしレベルで(一部そのまんまな部分はありますが…)、しかし見る人が見れば明確に繋がりつつ、同時に新たなものを提示している点でしょう。
それは逆に、サブジャンルものとしては題材レベルに留まるということかもしれませんが、しかしその活かし方の巧みさは、特筆すべきものがあると感じる次第です。
と、長くなってしまいましたので次回に続きます。
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