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2012.06.08

「十八面の骰子」 巡按御史が暴く時代の謎

 中国は宋の時代、地方では様々な腐敗・犯罪がはびこる中、各地を旅する三人組がいた。見かけは十代の少年のようだが医術を修めた趙希舜、講談師も裸足で逃げ出すほどの美声の持ち主の傳伯淵、荒事を得意とする髭面の無頼漢・賈由育。彼らはある使命を帯びて、各地で起きる怪事件に挑むのだが…

 時代ミステリ好き、武侠もの好き、そして中国の歴史(特に宋代)に興味を持つ者でありながら、今まで本作を読んでいなかったことを最初に白状せねばなりません。
 本作は特に中国を舞台とした時代ミステリを得意とする森福都による、まことにユニークな連作短編集であります。

 本作の主人公となるのは、二十代も半ばになりながら、見かけは15歳ほどにしか見えない青年・趙希舜。高名な医者であった祖父の技を受け継いだという彼は、その腕を振るうために各地を旅するのですが――
 実は彼の正体は、皇帝の名代として地方を巡り、地方役人の不正を監察する巡按御史。身分を隠して市井に紛れ、密かに探索を行って役人の悪事を暴く…というのは、日本でいえばやはり「水戸黄門」が浮かびますし、ある意味万国共通の庶民の憧れでありますが、本作のユニークな点は、まずはキャラクター配置であります。

 上で述べたとおり、希舜の見かけは少年そのもの。周囲を油断させるには便利ですが、しかしいざ身分を明かして「控えおろう!」とやるにはいささか押し出しが弱い。
 そこで彼の代役(替え玉)となって御史として行動するのが、彼にとっては相棒であり、兄貴分であり、お目付役である傳伯淵。女性が思わず顔を赤らめるほどの美声の持ち主で、見かけは書生じみた外見ながら、実は拳法の達人、希舜のことをたしなめながらも、誰よりも大切に思っているという、色々おいしすぎるキャラクターです。
 さらにもう一人、希舜の父によってつけられた護衛である賈由育も面白い。荒事専門の脳筋のように見せて実は切れ者、希舜の捜査の役に立つこともしばしばで、しかし伯淵とは馬が合わず、希舜を挟んで睨み合いになるというのも、お約束ではありますが楽しいものであります。

 そんなキャラものとしても楽しいのですが、しかし本作はあくまでも時代ミステリ。収録された五篇は、以下の通り――

 大水路の浚渫工事が続く町の殺人現場に残された、十八面の骰子が思わぬ凄惨な秘密を抉り出す「十八面の骰子」。
 二つの豪族が睨み合いながらも手をこまねく知事の監察に訪れた一行が、土地の窯元の鉢に込められた哀しい想いを知る「松籟青の鉢」。
 十年後の再会を約した五人の男たちが、再会直前に次々と殺されていく謎に、希舜と伯淵の秘められた過去が絡む「石火園の奇貨」。
 謎の病に倒れた希舜の腹違いの兄の屋敷から見つかった不思議な竹筒に導かれて思わぬ陰謀に巻き込まれる「黒竹筒の割符」
 蜃気楼の現れる港町を襲う海賊の群れに挑むこととなった一行が、事件の背後のからくりを暴き出す「白磚塔の幻影」。

 個人的には、対立する二つの家の間で半ば無法地帯となった町で、次々と両方の家の人間が死んでいく謎を描きつつ、その背後に伝説の名品・松籟青の鉢を巡る人々の想いが入り乱れる「松籟青の鉢」が一番印象に残りましたが、その他の作品も実に面白い。
 いずれも、ミステリとしての仕掛けの面白さはもちろんのこと、この時代ならではの、この舞台であってこそ成立する事件を描き出しており、中国歴史ファン、時代ミステリファンとしてはまさに至福の一冊であります。

 そして、希舜と伯淵を巡っては、まだまだ明かされていない過去が存在します。早く遅れを取り戻すため(?)、シリーズ第2弾「肉屏風の密室」も早く読まねば、と堅く心に誓った次第です。

「十八面の骰子」(森福都 光文社文庫) Amazon
十八面の骰子 (光文社文庫)

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