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2012.06.11

「鬼舞 見習い陰陽師と災厄の薫香」 大内裏に迫る危機 硬軟交えた屈指の快作!

 大納言の姫に次いで、中宮に香を献上した右近少将。しかしその香には、人を狂乱させる成分が含まれていた。その香の香りが、思わぬことからばらまかれたことにより、大内裏は大混乱に陥ってしまう。偶然その香りの力を免れた道冬と吉昌たちは事態収拾に努めるが、しかし彼らの前に最悪最凶の相手が…

 都に出てきたばかりの駆け出し陰陽師・宇原道冬と、若き陰陽師たちが活躍する「鬼舞」シリーズ第6弾は「見習い陰陽師と災厄の薫香」。
 前作に登場し、大納言の娘を狂乱させた謎の香が、今度はそれとは比べものにならない騒動を引き起こすのですが――いやはや、今回はシリーズでも最高の盛り上がり、読みながら何度も驚かされた快作であります。

 大納言の娘の狂乱事件の原因究明のため、道冬たちが大納言邸から持ち帰った品々の整理を行っていた陰陽寮を襲った一角の鬼。鬼によって炎に包まれた陰陽寮から、道冬はからくも逃れて…というところで終わった前作。
 本作は、その道冬が自邸に戻ってくる場面から始まるのですが――

 いきなり彼を巡り、巨大トノサマガエルと畳の付喪神の修羅場が展開されるという(いい意味で)脱力ものの展開に、ああいつもの「鬼舞」だ…と安心(?)したのも束の間、事態は不穏に、静かに展開していきます。

 前回、そうとは知らずに大納言邸の混乱の原因を作った右近少将は、今回もまた知らずに問題の香を、今度は中宮のもとに届けることとなります。
 道冬もまた、少将に同行することになるのですが、実は女房に女装して中宮の下で潜入捜査を行った過去を持つ道冬としてはヒヤヒヤもの。以前の女房は妹の冬路でした、と苦しい言い訳をして、その場は取り繕うのですが…(と、これがあの古典文学誕生のきっかけになった、という展開も楽しい)

 冷や汗をかきながらもその場を切り抜けた道冬は、その晩、陰陽寮で吉昌たちと天体観測を行うことになるのですが、そこにお忍びの主上が登場して騒ぎに。
 しかしそれも、これから始まる大波乱の幕開けに過ぎないのであります。


 ここまでが分量にしてちょうど半分。そして本作の後半全てを使って、大内裏を襲う一大事件が一気に描かれることになります。

 あの人を狂わせる謎の香、その香りが思わぬことから大内裏全体を覆い、それを嗅いだ者たちが次々と理性を失って暴走。からくもそれから逃れた道冬は、何とか事態を鎮めようと奔走するのですが――

 いやはや、この後半の展開は、ほとんどゾンビホラーの趣があります。
 この場合のゾンビホラーとは、広義のそれ――理性を失い凶暴化した人間の集団からの逃走・攻防戦――であることはもちろんですが、しかしそれであっても、平安時代の、それも大内裏を舞台にして描いたものはさすがに見たことがありません。

 さらにその中で吉昌、綱、行近それぞれに宿命の対決が展開されるのがたまらない。
 吉昌はまさかの最悪最凶の敵と激突し、綱は後の世にまで伝えられるあの鬼と対峙(あの伝説がこうアレンジされるとは!)、行近は戦いの中でその正体を…

 そしてさらに驚かされるのは、これだけシリアスなドラマを描きながらも、その合間にきっちりコミカルな展開を織り交ぜ――そしてそれが、次のシリアスな展開にきっちりと生きて繋がっていく点であります。

 何故大内裏に香の香りが広がったのか、何故道冬たちは香の影響を受けないのか…ギャグかと思ったものがきっちりと次の展開に生きて繋がり、そしてそこから新たなギャグも生まれていく。
 特に、しょうもない(ほめ言葉)パロディかと思っていたあの付喪神が、クライマックスでまさかまさかの大爆走を見せるのにはひっくり返りました。


 そして大内裏を巻き込んだ大騒動が何とか収束しつつも、まだまだいくつもの因縁と禍根が残り、この先の展開は全く予想できないのですが…
 しかしそこでさらにとんでもないオチが待ち受けているのには驚かされます。

 題材の料理法もさることながら、シリアスとコミカルの使い分けの妙に最初から最後まで驚かされっぱなしの本作。
 シリーズ一の、いやもしかすると作者の作品の中でも屈指の快作であります。

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